- 不動産の「共有名義」の基本知識
- 共有名義の不動産を売るための賢い方法
- 共有名義の不動産売却の流れと手続き
「共有名義」とは、土地・建物などの所有権を複数人で共有している状態を指します。夫婦共同で住宅ローンを組んで住宅を購入した場合、また不動産を相続した場合に、共有名義になることがあります。
この共有名義の不動産を売却する場合、所有権の持ち主が複数人であることから、トラブルが生じることがあります。
そこで、この記事では共有名義の持ち家やマンションを売りたい方に向けて、売却方法、スムーズに売るためのポイントをわかりやすく解説します。
共有名義のメリットとデメリット・特徴をしっかり理解したうえで、売却の手続きを進めていきましょう。
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目次
「共有名義」の基本知識
前提知識として、改めて「共有名義」の基本について説明します。
共有名義とは、不動産(土地・建物)の所有権を複数人で共有している状態のことです。ちなみに対義語「単独名義」は、1つの不動産を1人で所有する状態を指します。
たとえば夫婦で不動産を購入する際、夫と妻それぞれでローンを組んだ場合、両者が出資者となるため共有名義での契約になります。
共有持分とは
共有名義の物件については名義人は「持分」を持つことになります。
出資する金額、相続したときの割合によって「共有持分」の割合も決まります。持分のある共有者は共有持分に応じた不動産を所有していることになります。
共有名義の不動産は売却に手間がかかる
共有名義の不動産の売却は、手順を間違えると想定外の出費が発生するリスクがあります。
また、売る際の手順が増えたり、気をつけなければならない点が増えたりと、単独名義の不動産の売却よりも手間がかかります。
ここからは共有名義の不動産の売却方法には、どのようなパターンがあるのか解説していきます。
共有名義の不動産の5つの売却方法
共有名義になっている不動産は次の5つの方法に分けることができます。
- 共有者全員の合意による売却
- 共有者への持分の売却
- 自己持分の第三者への売却
- 司法手続きを経ての売却
- 分筆による売却(土地のみの場合)
それぞれ詳しくみていきましょう。
共有者全員の合意による売却
共有名義の不動産の売却は、共有者全員に売却意思があることが前提です。一人でも同意しないと売却することができません。
この場合は、不動産は一つの物件として市場に出され、売却後の収益は共有者間で持分に応じて分配されることになります。
共有者への持分の売却
他の共有者の持分を一人が買い取りすれば、買い取った共有者はすべての持分を取得することになるため、単独で不動産を売ることができます。一人ですべての権利を持つことになるため、他の共有者の同意は不要になります。
不動産を共有しているのは、親子関係や夫婦、兄弟同士など、親族であるケースが多くなります。
売却額について共有者同士の話し合いは必須となりますが、仲に問題がなく、良好な関係であれば話し合いも短時間で済み、持分を買い取りしてくれる可能性も高いでしょう。
注意しなければならないのは、極端に相場よりも安い売却額で取引した場合、受け取った側に贈与税が課税されることです。
贈与税には年間110万円までの非課税枠があり、これを超える部分が課税対象となります。低額譲渡は、不動産本来の価値との差額分が課税対象となるため、注意が必要です。
自己持分の第三者への売却
自己持分を共有者以外の第三者へ売却することもできます。ただし、この売却方法は決しておすすめできません。
共有持分の買い手は不動産を自由に処分・利用することができないため、買取価格は大きく下回ります(共有持分の売却価格は、適正価格の50~70%程度になるといわれています)。
また、この場合の売り先は不動産買取を専門としている業者がほとんどです。売却が成功したとしても、共有持分を買い取ったあと、専門業者がほかの共有持分権者に対して売却話を持ちかけるパターンも十分に考えられます。
トラブルを回避する意味でも、納得のいく価格で売却する意味でも、他の共有持分権者に売却するのがベストです。
司法手続きを経ての売却
共有者間で売却に関する合意が得られない場合、裁判所に申し立てて、「共有物分割請求訴訟」を通じて不動産を売却することができます。
共有分割請求とは、文字通り、共有物(この場合は不動産)を物理的に分割するか、売却して収益を分配することを請求する法律上の行為を指します。
これは共有者間で合意形成を試みても、合意に至らなかった場合に用いられる最後の手段です。
分筆による売却(土地のみの場合)
土地のみを売却する場合は、分筆してから売却するという方法もあります。「分筆」とは正式には「分筆登記」といい、登記簿で一つとされている土地を複数に分ける方法のこと。
共有名義の土地をそれぞれの持分割合に応じた面積で分け合い、再度各々で所有権の登記を行えば、各共有者それぞれで自由に売却することができるようになります。
分筆によるコストと注意点
登記完了後、それぞれの土地の持分を交換・集約し、単独所有とするために所有権移転登記を行うため、不動産の固定資産税評価額の0.4%の登録免許税と、司法書士報酬を支払うことになります。
どの範囲を誰が所有するかによって価格に差が出ることがあるため、話し合う必要が出てきます。話し合いで土地の増減や境界線の位置調整を費用清算することもできますので、必要に応じて対応します。
区分所有権は分筆できない
また、分筆するにしても建物が建ってしまっている土地は、地上権・賃借権によって保護されていれば建物を取り壊すことはできません。また、家屋やマンションの区分所有権は分割して分け合ったり、区分登記することはできません(ただし、2棟以上の建物が1個の建物として登記されている場合は、建物分割登記が可能)。
そして、分筆した土地が行政指導による最低敷地面積以下の場合、建築確認申請が受理されないことがあるため注意が必要です。
ここまでで、共有名義の不動産を売却するための主な手段を解説してきました。現実的におすすめできる売却方法としては「共有者全員の合意による売却」「共有者への持分の売却」となります。
それ以外の方法だと適正な価格で売れない、トラブルに遭う可能性が高い、後々まで禍根を残すといった可能性があります。できれば共有者全員から同意を得たうえでの、売却が望ましいでしょう。
次からは共有者の同意が得られない状態に陥らないための対処法、同意を得るための方法について解説します。
共有名義の不動産を賢く売るための方法
ここから不動産の相続時のおすすめの売却方法と、共有名義の不動産に居住しているために、売却に否定的な共有者がいる場合の対処法をお伝えします。
相続時には「換価分割」がおすすめ
換価分割とは、不動産を売却してからその売却代金を分ける方法のことで、相続が発生した際に利用できる制度です。
相続した不動産の売却に関して、相続人が複数いる場合、まず共有名義に登記をしてからの売却が原則となっています。しかしながら不動産が共有になると手続きが面倒なので、相続時に限り、換価分割が認められています。
換価分割では遺産を一旦現金化してから分割するため、全員に平等に分割できるうえ、相続税を納めるための現金も準備することができるのです。
この方法は公平な分配となるので、トラブルの発生が少なくなります。
今後利用する予定がない不動産の場合や、相続人同士の関係が希薄な場合におすすめできる手段と言えるでしょう。
居住者がいる場合は、リースバックを提案する
共有名義の物件に居住しており、すぐの転居は避けたいため、売却に前向きでない共有者がいる場合に提案できる手段として、リースバックがあります。
リースバックとは、専門の不動産業者や投資家に自宅の所有権を売却し、賃借人としてローンの代わりに家賃を払うことで住み続けることができる制度です。
退去に伴う出費を抑えられるだけでなく、不動産売却後も住み慣れた家で生活できるうえ、将来的に金銭的な余裕ができれば不動産を買い戻すことも可能です。
ただ、所有権が第三者に渡るため、新しい所有者によって使用するルールが決められ、自由度が制限されてしまうこと、また家賃が相場より高くなってしまい支払いの継続が難しくなる場合もあるので注意が必要です。
ここからは共有名義の不動産を売却するための必要書類と具体的な手順について解説していきます。
共有名義の不動産を売却する必要書類と手順
共有名義の不動産を売却する際には、次の3つの書類を用意しておきましょう。
- 登記識別情報通知書または登記済権利証
- 境界確認書、地積測量図
- (共有名義者全員の)身分証明書と実印、印鑑証明書、住民票
耳慣れない書類もあるかと思いますので、以下、補足します。
登記識別情報通知書または登記済権利証
登記識別情報通知書は、法務局・インターネット請求・登記情報サービスで地番を開示して取得が可能です。地番は
- 抵当権設定契約証書
- 不動産を買ったときの売買契約書、重要事項契約書、登記識別情報
- 毎年、市町村から送られてくる固定資産税納税通知書
などに記載されています。
登記識別情報とは?
12桁の英数字からなる暗証番号のようなもので、不動産登記を行った人のみに通知されます。
この識別情報を登記所へ提出することで、本人証明が可能となります。
登記済権利証とは?
登記済権利証は、不動産の登記が完了した際に登記名義人に対して交付されるものです。平成18年までは権利証として発行されていました。
権利証を持っている人が、その不動産の所有者であることを証明するためのもので、売却の際には必須の書類となっています。 万が一紛失してしまった場合、不動産売却の際の登記申請において、権利証を提示できないことを説明し、事前通知を利用しましょう。
登記所から本人限定受取郵便にて事前通知が発送されてから2週間以内(海外在住者の場合は4週間以内)に申出をすることで、登記名義人であることを確認してもらうことができます。
境界確認書・地積測量図
土地や戸建を売却するときに必要となる書類です。
境界確認書とは?
隣地との土地の境界をはっきりさせるために測量(境界確定測量)を行い、その結果確定した境界を証明する書類のことです。
地積測量図とは?
地積測量図とは、不動産登記法で「一筆の土地の地積に関する測量の結果を明らかにする図面であって、法務省令で定めるところにより作成されるもの」と定められている測量図のことです。
地積測量図があることで、その土地の面積が正確に分かり、土地の境界を明確にすることができます。具体的に地積測量図には、以下の内容が記載されています。
- 地番と土地の所在
- 地番
- 基準点の凡例
- 面積の計算法
- 面積の計算法
- 測量した年月日
地積測量図がない場合は、登記(公簿)面積で契約する場合もあるため、必ずしもなくてはいけないものではありません。
しかし、境界があやふやなまま取引を進めた場合、後々、契約者間または近隣の土地所有者とのトラブルに発展する恐れもあるため、重要な書類です。
近隣の土地の所有者と協議したうえで、境界線確認書、地積測量図を作成しておいた方がいいでしょう。
身分証明書と実印、印鑑証明書、住民票
共有不動産の売却には、共有名義者全員の同意はもちろん、身分証明書も全員分が必要となります。
これに加えて、実印や印鑑証明書、住民票といった書類も揃えなくてはなりません。書類すべてを揃えたうえ、共有名義者全員が実印を押し、契約書へ署名をすることで売却が可能になります。
また、売却に携わることができない場合は、別の共有者に代理で手続きを委託するための委任状の用意も必要です。
共有名義の不動産売却の流れ
共有者間の合意形成、必要書類の準備が終わったあとの売却までの一般的な流れは下記の通りです。
- 不動産会社との契約
- 売買契約の締結
- 所有権移転の手続き
- 収益の分配
- 税金の申告と納付
不動産会社との契約を行えば、随時アドバイスがもらえることも多いので、スムーズに売却できる可能性が高くなります。
ただ、複雑な法的な手続きや税金の発生もあるため、信頼できる不動産専門家や法務・税務の専門家に助言をもらうのが重要です。
ここまでで共有名義の不動産を売るための具体的な方法と書類、流れについて解説してきました。ぜひご自身にとって最適な方法を選んでいただければと思います。
最後に、共有名義の不動産売却のポイントについて簡単に紹介します。
共有名義の不動産を売却するときのポイント
共有名義の不動産売却について押さえておくと便利なポイントを紹介します。
共有持分権者を明確にする
共有名義の不動産で深刻な問題となっているのが、相続人が複数いる場合、その後の相続によってさらに共有者の数が増え、権利関係が複雑になること。
共有者の数が増えることで手続きの手順がいっそう煩雑になってしまい、手間が増え、どんどん処分しづらくなってしまいます。相続が発生したタイミングが、共有を解消する良い機会ととらえ、確実に対応することをおすすめします。
名義人の所在が分からないときは「不在者財産管理人制度」を活用しましょう。これは、不在者の財産を管理する人を裁判所に選定してもらう制度(行方不明の人の代理人を立てる)です。
窓口係を決めておく
共有者全員で売却に向けた意思の統一を図るためには、中心となって共有者間の意見をまとめる調整役が必要になってきます。
しかし、幅広い実務経験、土地建物に関する知識や法律、関連者との調整力の他に、必要に応じて土地家屋調査士や税理士、弁護士への手配や連携、隣接地所有者との境界問題、家屋の解体業者などへの手配や行程管理などにも対処することがあり、共有者内ではなかなか対応が難しいこともあります。
その場合は、多角的に対応できる経験豊かな不動産業者(実務者)に依頼するのが得策です。
事前に税金・ローン返済などの費用負担割合を決める
費用の負担割合は、原則的に持分割合で応分することが合理的です。持分割合以外の方法で配分することは、よほど特別な事情がない限り、揉める原因となりますので、避けたほうがよいでしょう。
一時的に窓口担当者が立て替えた場合でも、後で応分負担するルールをきちんと明確にしておくことが大切です。
また、オーバーローンとなっていると、不動産売却の障害となります。売却前には家のおおまかな売却価格とローンの残債を把握しておき、オーバーローンになっていないかどうか確認することが大切です。
最低売却価格を決めておく
同意事項のなかで最も重要なものは、ズバリ価格。
最低売却価格を決めておかないと、購入の申し込みがあるたびに、毎回「売った方が良いのか、もっと待ったほうがいいのか」といった協議を全員で行うことになってしまいます。
そうならないために、マンション売却前に「最低売却価格」「引き渡し時期のリミット」の2点を決めておくことが重要です。
値段交渉が入った場合でも、最低売却価格という共通の判断軸があるため、機械的に判断することが可能となります。
最低売却価格を低めに設定する
最低売却価格を高めに設定してしまうと、その価格での購入希望者が一向に現れないことがあり、売却の長期化にともない、不動産の売却自体を断念してしまうことも十分にあり得ます。
不動産会社に相談を行い、相場価格を調査したうえで最低売却価格を設定するとよいでしょう。
委任状による代行売却をうまく活用する
不動産の売却時には売買契約、重要事項説明、代金決済など、重要な場面で共有者全員が立ち会う必要があります。
ただ、仕事の都合がつかない、遠方に居住しているので契約場所に出向くことができないなど、共有者がさまざまな事情を抱えていることもしばしば。
そのような場合、売却に合意していることを前提に、出席可能な共有者に委任状を出して手続きを委託することも可能です(いくつか条件があるので、詳細は相談しましょう)。
共有不動産の相場価格を把握しておく
売却を敬遠している、もしくは敬遠しそうな人を前向きにさせるためにも、事前に共有不動産の査定を受け、共有持分権者全員の相場観を統一しておきましょう。
査定結果を示すことで、売却活動が前進する可能性がより高まります。
査定は複数の不動産会社に依頼し、査定価格を横並びにすることがポイントとなってきます。1社のみでは比較対象がないため、その金額が高いのか低いのか分かりませんが、複数の査定額があれば、高い価格と低い価格が一目瞭然となるためです。
引っ越し会社比較サービスと同じように、不動産にも一括査定サービスが存在します。
インターネット上で、売りたいと思っている不動産情報・個人情報を入力すると、複数の不動産会社が自動的に見つかり一度に査定依頼できるため、査定方法に迷ったり、時間に余裕がない場合は利用してみてはいかがでしょうか。
不動産の専門家に相談する
売却を敬遠している、もしくは敬遠しそうな人を前向きにさせるためにも、事前に共有不動産の査定を受け、共有持分権者全員の相場観を統一しておきましょう。
話し合いを先延ばしにしていると、時間の経過によって新しい相続が発生し、共有者が増えるなど状況が複雑化します。話し合いの長期化の恐れがあると感じた時点で、共有不動産売買を得意とする不動産業者への相談を検討しましょう。
不動産会社の担当者はさまざまなケースの売却事例を経験してきているので、効果的なアドバイスをもらえる可能性があります。
時間に余裕をもつ
不動産売却には平均的に6ヶ月から1年、マンションの売却でも3ヶ月から6ヶ月もの時間がかかるといわれています。
分筆するにしても、一般的に数ヶ月はかかってしまうでしょう。急ぎで住居を移らなければいけない事情が発生した場合であっても、いきなり売却できるわけではありません。
購入希望者側も、共有不動産を検討する場合「本当に代表権があるのか?詐欺ではないか?」など、通常の売却時よりもさらに注意深くなるため、事実確認にどうしても時間を取られることが多くなります。
売り手側としてはもどかしい思いをすることが多いと思いますが、契約が流れることのないよう、ある程度は相手に合わせるしかないのが現状です。
名義変更で所有者を統一することを検討する
前述した通り、共有持分権者のうちの1人が、共有持分割合をすべて購入したり、贈与を受けて名義変更し、単独名義にする方法があります。
単独名義になれば誰からも許可を得る必要がないため、自由に不動産を売却できます。しかしながら、贈与・売買ともに、名義を移す場合には下記のような税金が発生する場合があることは注意が必要です。
- 一定金額を超える贈与をした場合に受贈者が支払う贈与税
- 名義を変えた後で受贈者や買主が1回だけ支払う不動産取得税
- 不動産を保有している間は毎年支払続ける固定資産税
- 名義を変更する際に法務局に支払う登録免許税
共有名義の不動産を売却するときは準備が大切
これまで見てきた通り、共有名義は手続きに手間がかかり、売買に時間を要することが一般的です。
共有名義の不動産は売却して他の資産に換えるか、事前に権利関係を整理しておくことが後のトラブル回避につながります。
どの売却方法を選ぶにせよ、他の共有者としっかり話し合い、全員が納得いくかたちで売却できるように、この記事を活用いただけると幸いです。
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