
この記事のポイント
- 法人の不動産売却益には譲渡所得税ではなく法人税等が課され、個人と異なり、所得全体を合算して課税される点や経費算入の範囲が広い
- 法人の実効税率は33〜35%で、個人の長期譲渡所得税率20.315%より高い
- 特例の適用可否を事前に確認すると法人でも最大5,000万円の控除を受けられる
「法人が不動産売却をするときは、どのような税金がかかるのだろう?」
「法人への課税は、個人と何が違うのだろう?」
法人の不動産売却で発生する税金は、個人の不動産売却でかかる税金とは一部に違いがあります。また、税金を計算するうえで経費に含めることのできる範囲や会計処理の方法も異なるため、法人ならではのルールについて確認が必要です。
今回は法人の不動産売却において発生する税金について、確認すべきポイントを解説します。
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地方銀行、住宅会社勤務を経て住宅や不動産を中心としたライターとして活動。現場で多くのお客様の対応で経験させていただいたことをもとに、専門知識に基づいた分かりやすい記事執筆に取り組んでいます。
記事の構成
不動産売却における法人と個人での税金の違い
不動産売却における法人と個人での税金の違いは、譲渡所得に対してかかる税金の種類です。法人は法人税等、個人は譲渡所得税が課されます。そのほかにかかる印紙税や消費税については、法人・個人による違いは特にありません。
この章では法人税等と譲渡所得税の違いによって発生する具体的な違いを3つ紹介します。
経費として計上できる範囲の違い
法人税等と譲渡所得税では経費として計上できる範囲が異なります。
前提として、法人税等とは以下の税金をまとめた呼び方です。
- 法人税(国税)
- 地方法人税(国税)
- 法人事業税(地方税)
- 特別法人事業税(地方税)
- 法人住民税(地方税)
法人税等は、法人の所得全体に一括して課される仕組みです。不動産売却による譲渡益だけでなく、ほかの事業によって発生した収益・費用もまとめて計算し、最終的な利益に対して法人税等が課されます。そのため税金の計算に際して、不動産売却と関係のない支出も経費として含めることが可能です。
一方で個人にかかる譲渡所得税は、不動産の売却に直接関係する収益・費用のみを用いて計算します。計算に含められる経費は、不動産の取得費や譲渡費用のみです。また、譲渡所得税は分離課税制度を採用しているため、譲渡所得とほかの所得の合算もできません。
控除や特例の適用範囲の違い
不動産売却において適用できる特例は個人のみを対象としたもののほうが多いです。
「不動産売却ではさまざまな控除や特例を使える」というのは、個人のみに該当することが多いので気をつけましょう。
なお、法人に適用される特例については後述しているので参考にしてください。
税率の違い
個人にかかる譲渡所得税は、所得税と住民税の2つに分けられます。それぞれの税率は売却した不動産の所有期間によって以下のように異なります。
| 区分 | 所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 長期譲渡所得(5年超) | 15% | 5% | 0.315% | 20.315% |
| 短期譲渡所得(5年以下) | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% |
法人にかかる法人税等の実効税率は33〜35%程度です。法人の資本金の額や所得額などによって変動します。
実効税率とは法人事業税を損金算入したうえで計算する、実際の負担に近い税率のことです。法人税等に含まれるさまざまな税金の税率と、法人事業税の損金算入を考慮したうえで求められます。実質的な負担分に近い額を計算するのに使います。
次の章で法人税等に含まれる税金それぞれの税率を紹介しますが、ただ不動産売却益にそれぞれの税率を乗じただけでは正確な税額を計算できません。実効税率を乗じれば、大まかではあるものの、より実際の負担分に近い金額を算出できます。
法人の不動産売却でかかる税金と税率
不動産売却において発生する税金のうち、法人ならではの税金の税率について紹介します。
法人税
法人税の税率は、資本金の額および所得額によって異なります。普通法人の法人税率は以下のとおりです。
| 区分 | 税率 | ||
|---|---|---|---|
| 資本金1億円以下 | 年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% |
| 適用除外事業者 | 19% | ||
| 年800万円超の部分 | 23.2% | ||
| 資本金1億円超 | 23.2% | ||
地方法人税
地方法人税は法人税額に税率を乗じて計算します。地方法人税の税率は10.3%です。
法人事業税(所得割)
法人事業税には「所得割」「資本割」「付加価値割」がありますが、不動産売却の譲渡益に関係するのは所得割です。
資本金1億円超の普通法人の法人事業税所得割は1.0%です。
資本金1億円以下の普通法人等の法人事業税所得割の税率は以下のとおりです。
| 税率 | |
|---|---|
| 年400万円以下の部分 | 3.5% |
| 年400万円を超え800万円以下の部分 | 5.3% |
| 年800万円を超える部分 | 7.0% |
出典:法人事業税|総務省
特別法人事業税
特別法人事業税は法人事業税の所得割に以下の税率を乗じて計算します。
| 税率 | |
|---|---|
| 資本金1億円超の普通法人 | 260% |
| 特別法人 | 34.5% |
| 資本金1億円以下の普通法人公益法人等投資法人等 | 37% |
法人住民税(法人税割)
法人住民税は均等割と法人税割の2つによって構成されています。
均等割はすべての法人に等しく納付義務のある税金です。資本金の額や従業員数によって決定されます。不動産売却による売却益の有無や大きさは関係なく、赤字の法人も支払う必要があります。
不動産売却と関係があるのは法人税割のほうです。法人税割は法人税額に一定税率を乗じて計算します。税率は以下のとおりです。
| 納付先 | 税率 |
|---|---|
| 都道府県 | 1.0% |
| 市町村 | 6.0% |
| 合計 | 7.0% |
東京都23区内に事業所がある場合は、考え方がやや複雑です。詳しくは東京都主税局のサイトに記載があります。
出典:法人住民税|総務省
消費税
法人が不動産を売却した場合でも、すべての取引に消費税がかかるわけではありません。
- 課税対象→建物部分(事業用資産としての売却)
- 非課税→土地の売却
そのため、売却代金に建物と土地が含まれる場合は、建物部分のみ消費税の課税対象となります。課税売上高や簡易課税制度の適用有無によって、納税額は変わります。
印紙税
不動産売買契約書を作成する場合、契約書に記載された金額に応じて印紙税がかかります。
電子契約の場合は不要ですが、書面契約の場合は所定の収入印紙が必要です。
紙税額は契約金額によって異なるため、売却金額が大きいほど負担も増えます。
土地等の譲渡益に対する追加課税
法人における土地等の譲渡益に対する追加課税とは、土地の売却益には通常の法人税に追加課税として特別税率を課すという制度です。土地の所有期間によって以下の税率が上乗せされます。
| 土地の所有期間 | 上乗せされる税率 |
|---|---|
| 5年以下 | 10% |
| 5年超 | 5% |
ただし、同制度は2029年3月31日まで停止されています。これは、企業の保有土地を市場に供給することによる土地取引の活性化と、土地の有効利用の促進のねらいによるものです。
法人の不動産売却で節税するためのポイント

法人の不動産売却で節税するためには、課税対象となる所得を抑えることが大切です。法人の所得を抑えて節税するためのポイントを3つ紹介します。
なお、より効果的な節税対策を行うには、節税サポートを行っている不動産の仲介会社を利用するのがおすすめです。
関連経費を積極的に計上する
経費を積極的に計上することで利益を圧縮でき、節税につながります。
以下は、不動産売却に関連して発生する費用の例です。
- 不動産会社に支払う仲介手数料
- 売買契約書に貼付する収入印紙代
- 抵当権抹消費用
- ローン返済手数料
- 建物の取り壊し費用
- ハウスクリーニング代
- 固定資産税および都市計画税の精算金
法人の場合は譲渡所得税による課税ではないので、関連経費の計上はもちろんのこと、通常の節税策として経費を漏れなく計上することも重要です。
特例を適用する
個人ほど多くありませんが、法人が適用できる特例も存在します。
法人が適用を受けられる特例として以下の例が挙げられます。
| 特例 | 概要 |
|---|---|
| 特定の長期所有土地等の所得の特別控除 | 2009年および2010年に取得した長期所有土地等の売却について、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えている場合は、1,000万円までの控除を受けられる。 |
| 収用換地等の場合の所得の特別控除 | 収用権が認められている公共事業のために不動産売却をした場合、5,000万円までの控除を受けられる。 |
| 特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の所得の特別控除 | 土地の区画整理事業などに土地を売却し、一定の要件を満たす場合に2,000万円までの控除を受けられる。 |
参照:
No.5451 平成21年及び平成22年に取得した長期所有土地等の1,000万円特別控除|国税庁|
第65条の2 《収用換地等の場合の所得の特別控除》関係|国税庁
第65条の3 《特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合の所得の特別控除》関係|国税庁
売却タイミングを調整する
法人にかかる法人税等は、法人の所得全体に一括して課されると紹介しました。この仕組みにより、売却タイミングの調整による節税が可能なケースがあります。
例えば当該事業年度において本業により多額の利益が発生する場合、不動産売却益が加わると高額の法人税等を課されてしまいます。一方、本業による利益が赤字の場合、不動産売却益が加算されても税負担がそれほど重くならない可能性が高くなります。
タイミングの調整が可能であれば、高額の利益が発生する事業年度ではなく、利益が少ない事業年度に売却をするのがよいでしょう。
売却益が出た翌年に役員報酬を増額する
法人の不動産売却で多額の利益が出た場合、その翌期に役員報酬を増額することで、法人の課税所得を圧縮できます。役員報酬は要件を満たせば損金算入できるため、結果として法人税等の負担を抑えやすくなります。
ただし、役員報酬は原則として期首に金額を決定する必要があり、売却した年の途中で増額することはできません。また、金額が不相当に高い場合は否認リスクもあるため、業績や職務内容との整合性を踏まえた設計が重要です。
法人の不動産売却にかかる税金計算シミュレーション
不動産売却にかかる税金について、法人と個人の比較表形式で計算シミュレーションを行います。
今回用いる例は以下のとおりです。
【法人の条件】
- 東京23区に本店を置く法人
- 資本金 800万円
- 従業員数 10人
【不動産売却に関する条件】
- 物件種別 土地
- 所有期間 10年
- 譲渡価額 3,000万円
- 取得費(簿価) 1,500万円
- 譲渡費用 200万円
- 特例の適用なし
なお、ここでは個人と法人とで最も異なる税金である法人税と譲渡所得税についてのみ取り上げます。また、不動産売却以外の収支は計算に含めません。
| 法人 | 個人 | |
|---|---|---|
| 不動産売却によって得た所得 | 3,000万円 – ( 1,500万円 + 200万円 ) = 1,300万円 | |
| 適用される税率※法人に適用される税率は法人の規模や所得等によって異なるケースがあります。 | 【法人税】800万円以下の部分:15% 800万円超の部分:23.2% 【地方法人税】10.3% ※法人税を課税標準とする 【法人事業税】400万円以下の部分:3.5% 400万円超800万円以下の部分:5.3% 800万円超の部分:7.0% 【特別法人事業税】37% ※法人事業税の所得割額を課税標準とする 【法人住民税】7.0% |
長期譲渡所得に該当 【譲渡所得税】20.315% |
| 税額(内訳) | 【法人税】800万円 × 15% = 120万円 (1,300万円 – 800万円)× 23.2% = 116万円【地方法人税】236万円×10.3% = 24万3,080円【法人事業税】70万2,000円400万円 × 3.5% = 14万円 (800万円 – 400万円)× 5.3% = 21万2,000円 (1,300万円 – 800万円)× 7.0% = 35万円 【特別法人事業税】70.2万円 × 37% = 25万9,740円 【法人住民税】1,300万円 × 7.0% = 91万円※均等割は割愛 |
【譲渡所得税】1,300万円 × 20.315% = 264万950円 |
このシミュレーションでは、法人税なら約450万円(約35%)で、譲渡所得税なら約264万円という結果になります。
今回は不動産売却に関連する経費のみで計算していますが、法人の場合はそれ以外の経費を勘案できるため、あくまで目安として参考にしてください。
法人の不動産売却に関する税金の仕訳一覧
法人の不動産売却に関する税金の仕訳についても触れておきます。
法人税、住民税および事業税
法人の所得にかかる法人税等はさまざまな種類の税金をまとめた呼称です。税額も個々に計算して求める必要があります。
そして、仕訳の際に使う勘定科目は「法人税等」です。
決算によって確定した法人税等が80万円の場合、決算時の仕訳は以下のようになります。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 法人税等 | 800,000 | 未払法人税等 | 800,000 |
また、翌事業年度の納付時に未払法人税等を消し込む以下の仕訳が必要です。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 未払法人税等 | 800,000 | 普通預金 | 800,000 |
消費税
以下のケースを例に不動産売却時の仕訳を紹介します。
- 建物の譲渡価額は税込1,650万円(消費税150万円)
- 土地の譲渡価額2,000万円で非課税
- 建物の簿価1,000万円、土地の簿価2,000万円(購入時の価額)
この場合、仕訳は以下のようになります。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 3,650万円 | 土地 | 2,000万円 |
| 建物 | 1,000万円 | ||
| 固定資産売却益 | 500万円 | ||
| 仮受消費税 | 150万円 |
建物の譲渡価額にかかる消費税は「仮受消費税」として貸方で処理します。
印紙税
印紙税の仕訳に用いる勘定科目は「租税公課」です。印紙税が1万円の場合、仕訳は以下のようになります。
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 租税公課 | 10,000 | 現金 | 10,000 |
【FAQ】法人の不動産売却で生じる税金に関するよくある質問
最後に、法人の不動産売却で生じる税金に関するよくある質問3つを紹介します。
宗教法人や学校法人の不動産売却でかかる税金は、通常とは違う?
宗教法人や学校法人などの公益法人は、収益事業に関する所得のみが法人税等の課税対象になります。売却した不動産が収益事業に関連しないものであれば、売却益は法人税等の課税対象になりません。
消費税や印紙税など法人税等以外の税金は、通常と同様に課税されます。
不動産の転売をする場合、税金で気をつけることは?
不動産を時価を著しく下回る価額で譲渡した場合は、法人税の対象になる点に注意が必要です。原則として時価の2分の1未満で取引をした場合に著しく低額で取引したものとして扱われます。時価よりも著しく低い金額で譲渡することを「低額譲渡」といいます。
低額譲渡が行われた場合のポイントは以下のとおりです。
| 売主側 | 買主側 | |
|---|---|---|
| 法人から個人への低額譲渡 | 時価で譲渡したとみなして譲渡損益を計算する譲渡価額と時価の差額は寄附金(損金不算入)または給与とする | 譲渡価額と時価の差額を受贈益とする一時所得または給与所得として扱う |
| 法人から法人への低額譲渡 | 時価で譲渡したとみなして譲渡損益を計算する譲渡価額と時価の差額は寄附金(損金不算入)とする | 譲渡価額と時価の差額を受贈益とする |
法人の場合、そもそも損益通算の概念がない?
損益通算とは、ある所得の赤字を別の所得の黒字から控除することです。例えば個人の給与所得が400万円で、事業所得が50万円の赤字の場合、課税所得は400万円 – 50万円 = 350万円となります。
法人の場合、所得の区別をせず法人の所得全体に一括して課税する仕組みです。そのため、損益通算という概念はありません。
法人所有の不動産を短期譲渡するメリットはある?
法人の場合、個人と異なり短期譲渡・長期譲渡による税率の違いがありません。そのため、短期間で売却しても税率面のデメリットはなく、市場環境が良いタイミングで早期に売却できる点がメリットといえます。
一方で、含み益の圧縮や節税効果そのものは期待しにくく、税金面よりも事業戦略や資金回収を優先する判断になります。
まとめ
法人が不動産売却をした場合、不動産売却益には法人税等が課されます。法人税等は法人税をはじめとした複数の税金をまとめた呼び方であり、それぞれ税額の計算方法が異なります。不動産売却にかかる税金を正しく計算するためには、各税金について正しい理解が必要です。
納得のいく不動産売却を行うため、不動産売却において効果的に節税するには、節税を含むサポート全般ができる仲介業者に相談するのがおすすめです。
今回紹介した内容を押さえて、信頼できる仲介会社のサポートを受けながら不動産売却を進めましょう。
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逆瀬川勇造さん からのコメント
宅建士・2級FP技能士(AFP)・相続管理士
本記事では、個人の場合と法人の場合で、不動産のみを取り扱う場合の税金の違いについてご紹介しました。単純に税率を比較すると、個人では長期譲渡所得の税金が抑えられているため、個人で売却したほうがお得になりやすいです。一方、法人にした場合、不動産売却以外の事業で得た所得や経費をすべて合算できるという点が強みです。記事内ではご紹介できていませんが、例えば事前に届け出することで不動産を売却した年に役員に賞与を出すなどして所得を押さえることも可能です。不動産を事業として取り組み、定期的に不動産の売却が発生するようなケースであれば、個人で不動産を所有するより、法人で不動産を所有した方が、税金を抑えられるケースは多くなります。ただし、個人・法人に関わらず税金対策は計画的に進めることが求められるため、不動産会社や税理士に相談するようにしましょう。