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遺産を相続した場合、相続人等が相続税の申告を行うことはご存知の方も多いと思います。
しかし、相続税の他にも相続人の方が確定申告を行わなければならない場合があります。
今回は、そのような申告が必要になるケースと確定申告の方法、必要な書類について解説します。
目次
1.遺産相続した場合、確定申告は必要か
相続が発生して遺産を相続された方(相続人)は、その財産の額に応じて相続税を申告・納付する必要がありますが、通常その他に申告しなければならない税金はありません。
しかし、相続した財産の種類や取得方法、処分の仕方などによっては相続人自身が所得税の確定申告を行わなければならない場合があります。
また、本来なら被相続人が行うべき生前の所得税について、相続人が被相続人に代わって申告しなければならない(又は、申告した方が良い)場合もあります。
2.確定申告が必要な場合
まず、相続人自身の所得税の確定申告が必要になる場合は、具体的に次のようなケースです。
(1)収入が発生する資産を相続した場合
収入が発生する資産とは、賃貸マンション・アパートや貸駐車場などの賃貸不動産が主なものです。
これらの不動産を相続し、相続開始後も引き続き相続人が貸主として賃貸収入を得ている場合には、その収入から収入を得るために要した費用(例えば、管理費や修繕費、減価償却費など)を差し引いた所得を不動産所得として申告する必要があります。
尚、所得税の課税期間は暦年(1月1日~12月31日)ですので、相続開始日(通常、被相続人が亡くなられた日)からその年の12月31日までの所得が相続人の課税対象となり、1月1日から相続開始日までの所得は被相続人の課税対象になります。
(2)相続した土地や建物などを売却した場合
相続した土地や建物などを相続人が売却した場合、売却した金額とその財産を取得するのに要した費用(取得費)に差額(売却益)が生じていれば、その差額を売却した相続人が譲渡所得として申告する必要があります。
尚、建物の取得費については、新築又は取得から売却までの使用期間に係る価値の減少分(減価償却)を考慮して算出しますが、相続により取得した場合は被相続人が取得した価額と取得した時期を引き継ぐことになっています。
つまり、相続人が相続した際の相続税評価額や相続開始日を用いるのではなく、被相続人がその建物を取得した際の価額と時期を用いて算出することになりますので注意が必要です。
この取得価額と取得時期を引き継ぐ点は、減価償却を行わない土地についても同様です。
(3)遺産をすべて現金化した場合
遺産の大半は自宅の不動産で、そのままでは相続人間で公平に分け合うことができないため、遺産を売却・現金化して分割(換価分割)することがあります。
この場合も、売却したことによって売却益が生じていれば、(2)と同様にその差額を譲渡所得として申告する必要があります。
但し、換価分割では、遺産を現金化して分割・取得した相続人全員がその取得割合に応じて売却益を得たことになりますので、対象となる相続人全員が申告しなければならない点で(2)とは異なります。
(4)遺産をすべて寄付した場合
被相続人が遺言によって、あるいは相続人が相続により取得した財産を相続税の申告期限までに国・地方公共団体などの所定の団体に贈与(寄付)した場合、それらの財産には相続税が課税されないことになっています。
また、相続人が上記に該当しない団体に遺産を寄付した場合や、相続税の申告期限を過ぎて遺産を寄付したような場合は、寄付した相続人が所得税の申告を行うことによって一定の金額まで寄付金控除を受けられることがあります。
3.確定申告の方法
相続人が所得税の確定申告を行う場合、方法としては次の3つがあります。
尚、いずれの方法によっても申告・納付する時期・期限は、原則、所得が発生した年の翌年2月16日~3月15日(確定申告期)です。
(1)税務署の窓口に行く
相続人の方がご自身で申告書の作成から提出まですべて行うという場合は、相続人の住所地を所轄する税務署の窓口に行かれて手続きされるのが良いでしょう。
所轄の税務署は国税庁のHPで確認できますし、窓口であれば申告書の書き方などを丁寧にアドバイスしてもらえます。
確定申告期には税務署も無料相談会場などを設けて対応していますが、会場は混雑することが予想されますので、落ち着いて相談されたい方は申告期の前までに税務署へ行かれることをお勧めします。
(2)インターネットから申告する
自宅にインターネット環境があり、簡単なパソコン操作が可能な方であれば、国税庁の電子申告システム(e-Tax)を利用されると良いでしょう。
利用に当たっては、事前に「電子申告・納税等開始届出書」を提出して『利用者識別番号』を取得する他、マイナンバーカードに『公的個人認証サービスに基づく電子証明書』を取得して登録する必要がありますが、一度環境さえ整えれば税務署にわざわざ出向く必要がなく、添付書類の提出を省略することもできますので、不動産所得などで毎年申告が必要になる方にはかなりメリットがあります。
また、最近はスマホなどからでもe-Taxが利用でき、平成31年1月からはマイナンバーカードによる方法の他に『ID+パスワード』による方法も加わって、更に便利で簡単に利用できるようになっています。
(3)税理士に依頼する
ご自身で申告するのは不安がある、あるいは面倒臭いという方は、税理士に委任されると良いでしょう。
専門家に依頼する場合は多少報酬がかかりますが、申告に要する時間と手間を節約できる上、手続きの間違いや税額の計算誤りなどを心配する必要もなく、安心してすべて任せることができます。
4.確定申告に必要な書類
確定申告では、所定様式である「確定申告書B」に必要事項を記入して提出することになりますが、その他にも添付して提出しなければならないものがあります。
(1)青色申告を行う
不動産所得がある場合の確定申告には『白色申告』と『青色申告』の2種類の申告方式がありますが、特別控除65万円(又は10万円)などの優遇措置が受けられる『青色申告』を選択された方が得策です。
青色申告を選択する場合は、所定の期限内に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。
(申請書を提出しなければ『白色申告』を選択したことになります)
相続によって被相続人の賃貸不動産等を承継した場合、被相続人が生前に白色申告と青色申告のいずれを選択していたかによって提出期限が異なりますので、選択される場合は早めに期限を確認した上で提出するようにしましょう。
そして、不動産所得があって青色申告を選択した場合は「青色申告決算書」、白色申告の場合は「収支内訳書」に各々必要事項を記入し、確定申告書Bに添付して提出します。
尚、通常一回限りの申告となる譲渡所得の場合は選択できる申告方式はありませんので、上記書類の代わりに「譲渡所得の内訳書〔土地・建物用〕」や「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」など該当するものを選択・記入して添付します。
(2)必要な書類
その他に、申告する内容や条件に応じて次のようなものが必要になります。
①全員に必要な書類
平成28年分の確定申告からマイナンバー記載と本人確認及び番号確認が義務付けられ、申告に当たって下記書類の提示又はコピーの提出が必要になりました。
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●マイナンバーカードを持っている場合・・・マイナンバーカード
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●マイナンバーカードを持っていない場・・・マイナンバー通知カード + 身分証明書
(運転免許証、パスポート、健康保険証等)
尚、インターネット(e-Tax)から申告する場合はこれらを省略できます(必要ありません)。
②条件ごとに必要な書類
また、以下の条件に当てはまる方は、①に加えて次のような書類も必要です。
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●給与/退職所得や年金収入(雑所得)がある場合 ・・・ 源泉徴収票
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●各種所得控除を受ける場合
- ☑ 社会保険料控除 ・・・ 国民年金や健康保険・介護保険の保険料納付確認書
- ☑ 生命/地震保険料控除・・・ 保険会社が発行する保険料控除証明書
- ☑ 医療費控除 ・・・ 医療費明細書(国税庁・税務署の所定様式)
- ☑ 寄付金控除 ・・・ 寄付された団体が交付する領収書
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●居住用財産の譲渡所得の特別控除や軽減税率の適用を受ける場合
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☑ 特別控除 ・・・ 購入/売却した時の売買契約書と領収書/受領書(領収書控え)
購入/売却に際して要した費用の領収書 等 -
☑ 軽減税率 ・・・ 上記 + 売却した居住用財産(土地・家屋)の登記事項証明書
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5.故人の代わりに行う準確定申告
最後に、相続人が被相続人に代わって申告を行う場合について触れておきます。
準確定申告とは
先にも述べましたが、被相続人が亡くなられた年の1月1日から相続開始日までに被相続人に一定の所得がある場合は、本来なら被相続人が所得税の確定申告を行わなければなりません。
しかし、実際には被相続人は既に亡くなっており、自ら申告を行うことはできないため、相続人が被相続人に代わって確定申告をすることになります。これを準確定申告といいます。
準確定申告が必要な場合、相続人は相続の開始があったことを知った日(通常、被相続人が亡くなられた日)の翌日から4か月以内に、被相続人の住所地を所轄する税務署に申告・納付しなければなりません。
被相続人が亡くなられた年に多額の医療・介護費を支払っていたような場合は、医療費控除を受けることによって税金が還付されることもありますので、そのような場合は必要でなくても申告された方が良いかもしれません。
尚、被相続人が生前に個人で事業を営まれていて消費税の納税義務者であった場合は、所得税に加えて消費税についても上記期限内に準確定申告を行う必要がありますのでその点は注意して下さい。
6.まとめ
このように、相続が生じた際には、相続人自身、あるいは相続人の方が被相続人に代わって確定申告を行わなければならない場合が幾つかあります。
それらをご自身で申告することはもちろん可能ですが、中には税金計算が煩雑になるものもありますので、相続に伴う確定申告について何か分からないことや不安なことがあればお近くの税理士に相談・依頼されることをお勧めします。
■執筆:公認会計士、税理士 松井 信行 先生