住宅ローン減税は今や有名な制度で多くの人が利用しています。これは住宅を購入する場合は住宅ローンを利用することが多いからです。では、住宅ローンを使わない人、現金で住宅を購入する人には税制の恩恵は何もないのでしょうか。不公平感をなくすため、住宅ローンを利用しない人にも減税の方法が用意されています。そのひとつが投資型減税なのです。
投資型減税には新築時とリフォーム時に受けられる制度があり、ここでは投資型減税の要件や計算例、そして注意点を解説していきます。こうした減税制度は適用要件や手続きが難しい制度も多いものです。しっかり理解して投資型減税を利用しましょう。
目次
投資型減税とは
住宅ローンを利用せず自己資金のみで購入する人たちは、住宅ローン控除を利用することはできません。このため、こうした人たちとの不公平感を解消するため導入された制度が投資型減税といわれています。投資型減税は一定レベル以上の省エネ住宅を住宅ローンに頼らず購入する人たちへの減税です。この制度は以前からあった制度ですが、消費税の増税にあわせて拡充されました。投資型減税には新築住宅に適用されるもののほかに、リフォーム時にも利用できる投資型減税が用意されています。
投資型減税制度の控除額は?
投資型減税は認定住宅を新築した場合に、性能強化費用として支出した額の約10%分が所得税から控除されるものです。つまりよりよい住宅を建てたら、一般的な住宅との差額分の一部を減税しましょう、という制度になります。その控除額は最大で65万円です。計算式では、以下のようになります。
控除額=性能強化費用×10%
性能強化費用=住宅の床面積×43,800円/㎡(上限650万円)
算定例
面積 | 性能強化費用 | 性能強化費用 総額 |
控除対象額 | 控除額 |
100㎡ | 43,800円/㎡ | 438万円 | 438万円 | 43.8万円 |
150㎡ | 43,800円/㎡ | 657万円 | 650万円 | 65万円 |
単価が決まっており、控除対象額の上限も決まっています。このことからおよそ住宅部分が149㎡以上の床面積の建物は控除対象額の上限650万円が適用可能です。148㎡以下の建物は面積に応じて控除対象額が低額となります。新築する住宅の面積を確認し、控除額がどれくらいになるか予想してみましょう。
投資型減税の適用条件は?
投資型減税の適用条件は以下のようになります。
それぞれ解説します。
新築または建築後使用されたことのない住宅であること
自分で土地を手配し、その上に住宅メーカーや工務店に依頼して建築してもらったものが新築物件になります。これ以外に住宅メーカーなどが建築し、これを購入した場合が「建築後使用されたことのない住宅」です。いずれも誰かが利用したり、使用したりした中古物件では適用がありません。
認定長期優良住宅
認定長期優良住宅とは、簡単にいえば長く快適に暮らせると国が認めた家のことです。具体的には、バリアフリー性、耐震性、省エネルギー性などの性能を満たした住宅になります。戸建住宅の場合、1フロアの面積が40㎡以上、床面積合計が75㎡以上必要です。この他にも維持管理・更新の容易性や居住環境についても基準をクリアする必要があります。
認定低炭素住宅
長期優良住宅制度と同様に、低炭素や省エネルギーをクリアしたと国が認めた家のことです。具体的には、「省エネルギー基準の一次エネルギー消費量の10%を超える省エネ性能を有すること」、「節水対策をすること」の2点をクリアする必要があります。10%を超える省エネ性能を有するのは一見難しそうですが、クリアすべき基準は20年以上の前のものです。現在では10%を超える省エネ性能はそれほど難しいものではありません。また節水対策についても、節水タイプのトイレ、バスルームのシャワーなどでクリア可能です。
床面積
床面積が50㎡以上かつ居住部分が1/2以上であることが必要です。床面積50㎡以上とは、賃貸マンションでは2LDK程度が目安となります。店舗併用住宅などは店舗や事務所部分の割合が大きいと適用できません。
年間所得
合計所得金額が3,000万円以下であることが要件です。共同で家を所有する場合はその共有者の合算になります。例えば夫婦で共有する場合は、二人の収入が合算されます。単独で3,000万円の収入があるのはごく一部の人ですが、合算となると所得制限にかかる場合があるものです。
自身が居住する
所有者自身が居住する必要があります。セカンドハウスには適用されません。また、人に貸す目的で建築した賃貸住宅にも適用できません。さらに、住宅の引渡しまたは工事完了から6カ月以内に居住することが要件です。自身が居住しているかどうかは住民票により確認します。
投資型減税の申請時に注意するポイント
この投資型減税制度にはいくつかの注意点があります。主なものとしては、制度を適用する際の面積の基準と、併用できない特例についてです。それぞれみていきましょう。
・登記簿面積基準
投資型減税の適用を受けるための基準となる面積は登記簿面積、つまり全部事項証明書記載の面積となります。面積には壁の内側で計測する内法面積と壁の内部で計る壁芯面積があります。戸建住宅の場合、床面積は壁芯面積で計測されているので問題ありません。混乱を招くおそれがあるのは、マンションの場合です。
マンションの専有面積は内法面積で計測されています。ところが、販売中のカタログでは壁芯面積で記載されていることが多いのです。マンションの場合は同じ部屋であっても複数の面積が存在します。販売時のカタログやパンブレットからではなく、全部事項証明書を参照しましょう。
・併用できない特例
便利な投資型減税ですが、いくつかの特例は併用できないものがあります。譲渡所得税の3,000万円の特別控除、「特定居住用財産の買換え特例」は併用が不可能です。この期間は投資型減税を受ける住宅に居住した年及びその前後2年間で、合計5年間の間となります。すでにこれらの特例を適用していると、この投資型減税は適用できません。なお「マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」は併用可能です。この特例は譲渡損失に関わる特例になります。また、「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」も併用可能です。
・控除は一度きりでも翌年の繰り越しは可能
投資型減税の控除は1回かぎりです。ただし、一度では控除しきれない場合、残った部分は翌年に繰り越して減税できます。
リフォームの投資型減税とは
新築時には多くの人は住宅ローンも併用します。このため、投資型減税を適用する人は必ずしも多くありません。一方、リフォームの場合は新築時とは異なり、リフォーム代を自己資金で支払ってしまう人も多くいます。金額が新築時よりも少額になることも多いからです。そんなリフォームにも投資型減税は適用されます。以下の5つのリフォーム工事が対象です。いずれも控除対象限度額の10%が控除額となります。
項目 | 控除対象 | 控除期間 | 控除対象限度額 | 最大控除額 |
耐震リフォーム | 所得税 | 1年。改修工事を完了した日の属する年分 | 250万円 | 25万円(10%) |
バリアフリー リフォーム |
1年。改修後、居住を開始した年分 | 200万円 | 20万円(10%) | |
省エネ リフォーム |
250万円 (太陽光発電併用で350万円) |
25万円(10%) 35万円(10%) |
||
同居対応 リフォーム |
250万円 | 25万円(10%) | ||
長期優良住宅化 リフォーム |
250万円 (最大500万円) |
25万円から 50万円(10%) |
こうしてみると、控除額は新築時の投資型減税よりも少額となっています。この金額では減税を目的として工事をすることは難しいようです。どちらかというとリフォーム工事時に追加で耐震リフォームをしたり、バリアフリー化をしたりといった運用になります。
リフォーム型投資型減税の適用条件は?
リフォーム型投資型減税の適用条件はリフォーム内容によって大きく異なります。自己所有の住宅であること、床面積の基準や合計所得額の考え方は新築時の投資型減税と同じです。以下に各リフォームの適用条件を示します。
耐震リフォーム
耐震リフォームの適用条件は以下のとおりです。
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・自ら所有し、居住する住宅であること
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・昭和56年5月31日以前に建築された住宅であること
耐震リフォームに対する投資型減税の特徴は、適用される住宅が昭和56年5月31日以前に建築された住宅であることです。昭和56年の5月以前の建物はいわゆる旧耐震基準によって建築されています。昭和56年6月以降の建物に比べて耐震性が劣るのです。優先的にリフォームすることを推奨するために減税が行なわれています。
バリアフリーリフォーム
バリアフリーリフォームの適用条件は次のようになります。
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・自ら所有し、居住する住宅であること
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・50歳以上の者(入居開始年の12月31日時点)、要介護又は要支援の認定を受けている者
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・改修工事が完了した日から6ヶ月以内に居住の用に供していること
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・床面積が50㎡以上であること、床面積の1/2以上が居住用であること
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・自己の居住の用に供される部分の工事費用の額が改修工事の総額の2分の1以上であること
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・合計所得金額が3000万円以下であること
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・対象となるバリアフリー改修工事に係る標準的な費用から補助金等を控除した額が50万円を超えること
バリアフリーリフォームで特徴的なのは、50歳以上の人が居住していることが要件となっていることです。バリアフリーの恩恵を被るのは主に高齢者の方。この条件は特徴的ですが、年齢で区切るのは納得できるものです。
省エネリフォーム、同居対応リフォーム、長期優良住宅化リフォーム
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省エネリフォーム等の適用条件はほぼ同じです。
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・リフォームを行ったものが自ら所有し、居住する住宅であること
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・改修工事が完了した日から6ヶ月以内に居住の用に供していること
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・床面積が50㎡以上であること、床面積の1/2以上が居住用であること
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・自己の居住の用に供される部分の工事費用の額が改修工事の総額の1/2以上であること
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・合計所得金額が3000万円以下であること
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・対象となる一般断熱改修工事に係る標準的な費用から補助金等を控除した額が50万円を超えること
リフォームを行った人が所有し居住する物件でないと投資型減税の恩恵を受けることはできません。このため賃貸住宅のリフォームに適用はできなのです。このあたりの適用条件は新築時の投資型減税もリフォーム型の投資型減税も一貫した方針となっています。
算定例
バリアフリーリフォームの場合を想定し、リフォーム費用が150万円かかった場合と、300万円かかった場合を表にまとめました。Aのリフォーム費用とBの控除対象限度額のいずれか金額の少ないほうが控除対象額となります。
A リフォーム費用 |
B 控除対象限度額 |
C 控除対象額 A・Bいずれか |
D 控除額 (10%) |
150万円 |
200万円 |
150万円 |
15万円 |
300万円 |
200万円 |
200万円 |
20万円 |
投資型減税の申請方法
投資型減税の申請は確定申告によって行います。したがって建物新築したり、リフォームをしたりした年の翌年の3月15日が申告の締め切りとなります。確定申告の手続きについては他に譲りますが、認定住宅であることの証明書、増改築等工事証明書、登記事項証明書(全部事項証明書)、売買契約書写し、源泉徴収票などが添付資料として必要です。認定住宅の証明書や増改築等工事証明書、登記事項証明書などは普段は見慣れない書類になります。早めに用意をしましょう。
まとめ
投資型減税は住宅ローン減税ほどには世間に浸透していません。減税される期間も短いものです。それでも数十万円の税金が還付されるのは助かります。新築住宅を検討している人やリフォームを計画している人にとっては朗報です。建築の計画を少し変更してでも投資型減税が適用できれば工事代金の一部が還付されます。ぜひ投資型減税について勉強し、適用可能であれば利用してみましょう。