「財産は自宅の土地と家屋が大半だけど、相続税はどれ位かかるだろう?」と思われている方は多いのではないでしょうか。
また、土地の価格はバブル期に比べて下がったとは言えやはり高価ですから、それによる相続税の負担増はできるだけ抑えたいものです。
そこで今回は、相続税における土地などの不動産の評価方法や計算の仕方、相続税の負担を軽減するための方策などを解説します。
目次
1.相続税とは
相続税は、被相続人(亡くなられた方)が生前保有していた財産を、死亡したことを契機に清算する目的で相続人等(財産を取得された方)に課税される税金です。
従って、原則、被相続人が生前に保有していた経済的価値のあるすべての財産(又は債務)が課税対象になります。
相続税を計算する際の大まかな流れは次のようになっています。
(1)遺産総額を計算する
まず、①被相続人名義の現金・預貯金や有価証券、土地・建物などの不動産といった本来の財産に、②相続人等が受け取った一定の死亡保険金(みなし相続財産)や生前に被相続人から贈与を受けた一定の財産(生前贈与財産)を加えて、③非課税の財産や借入金などの債務を控除して遺産総額(これを課税価格の合計額といいます)を算出します。
(2)相続税の総額を計算する
次に、課税価格の合計額から基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引いて課税遺産総額を求め、それを相続人等が法定相続分に応じて取得したものと仮定して税率を掛けたものを一旦合計し、相続税の総額を算出します。
(3)相続人毎の納付税額を計算する
そして、相続税の総額を相続人等が実際に取得した財産割合に応じて按分し、各々適用できる税額控除を差し引いて相続人毎の納付(又は還付)税額を算出・決定します。
より詳細については、過去の記事(相続税の計算方法は?具体的な計算例と、控除額について知りたい!)を参照して下さい。
2.土地の評価
遺産の中でも財産価値が高く、遺産総額のかなりの割合を占めるものが自宅などの不動産、中でも土地です。
ですので、この土地を幾らで評価するかによって相続税額も大きく変わってきます。
相続税を計算する際の土地の評価方法については、土地の種類(地目)や利用単位(評価単位)に応じて『路線価方式』又は『倍率方式』のいずれかで評価することが国税庁の財産評価基本通達で定められています。
尚、土地の地目としては宅地や田、畑、山林など10種類が上記通達に挙げられていますが、ここからは最も代表的な『宅地』を前提に解説することにします。
(1)路線価による方式
この方式は、都市部や住宅地(市街化区域)で、国税庁が道路(路線)に路線価を設定している地域に所在する土地を評価する際に用いる方法で、次の算式によって評価します。
評価額 = 路線価×各種補正率×地積(面積)
路線価は国税庁のホームページに掲載されており、毎年7月に更新されます。
また、各種補正率は、土地の形状や現況などに応じて次のような項目毎に細かく決められています。
- 奥行価格補正率
- 側方路線影響加算率
- 二方路線影響加算率
- 間口狭小補正率
- 奥行長大補正率
- 不整形地補正率
- がけ地補正率
この他にも次のような特殊な土地については、一定の割合評価を下げられる可能性があります。
- 無道路地
- セットバックを必要とする土地
- 私道
- 地積規模の大きな宅地 等
(2)倍率による方式
この方式は、上記以外の路線価が設定されていない地域(市街化調整区域など)に所在する土地を評価する際に用いる方法で、次の算式によって評価します。
評価額 = 固定資産税評価額×倍率
固定資産税評価額は所在地を管轄する市区町村が3年毎に評価替えを行っており、倍率は国税庁のホームページに掲載されています。
(3)概算額を簡単に知りたい場合
相続税の申告をご自身で行うことはなくても、「土地の概算評価額を簡単に知りたい!」という方もいるでしょう。
その場合は、毎年4月頃に所在地を管轄する市区町村から『固定資産税課税通知書(課税明細)』が送られてきますが、そこに記載されている土地の固定資産税評価額に8/7(約1.1)を掛けることによって相続税評価額の近似値を求めることができます。
これは、通常、市区町村が評定する固定資産税評価額が前年1月1日現在の公示地価の概ね70%で設定されるのに対して、路線価はその年1月1日現在の公示地価の概ね80%で設定されるためです。
基準時点が数年異なりますが、地価があまり大きく変動しない現在ならばそれほど誤差は生じません。
3.建物の評価
(1)既存の建物(通常の場合)
同じ不動産でも建物の評価は簡単で、次のようになっています。
評価額 = 固定資産税評価額×1.0
固定資産税評価額は先の課税通知書に記載されていますし、所在地の市区町村に問い合わせれば確認することができます。
(2)建築中の建物
自宅などの建物を新築中に施主の方が亡くなって相続が開始することも稀にありますが、その場合は建築完了申請が未提出のため固定資産税評価額が設定されていません。
そのため、別途次のような算式で評価することになっています。
評価額 = 費用現価の額×70%
費用現価の額とは、課税時期(亡くなられた日)までに投下された建築費用の額を課税時期の価額に引き直した額の合計額のことをいい、建築総工費に課税時期までの工事進捗率を掛けて計算します。
4.相続税を少なくする方法
相続税を軽減する方法は幾つかありますが、相続財産の価額を下げて軽減する方法のうち、特に土地に関連するものとしては次のような方法が挙げられます。
(1)小規模宅地等の特例
相続税における土地の評価に関する特例として『小規模宅地等の特例』があります。
この特例は、要件さえ満たせば相続税を計算する際の土地の評価額を最大80%も減額できることから、適用できるのであれば必ず活用した方が良い特例の一つです。
例えば、被相続人が生前居住していた自宅の土地を相続し、先の評価方法によってその土地を評価した結果が1億円であったとしても、相続税を計算する上でその土地の評価額は80%減額した2,000万円で良いわけですから、その節税効果(相続税の軽減額)は相当なものになります。
それ故、この特例の適用要件はかなり厳格で、①宅地要件、②取得者要件、③手続要件のすべてを満たさなければ適用することができませんので、活用するなら要件を満たせるよう生前からしっかり準備をしておく必要があります。
(2)生前贈与
贈与税の税率の方が相続税の税率よりも高く設定されているため、一般的には生前に贈与するよりも相続した方が税負担の面では有利になります。
しかし、遺産の金額や構成によっては財産価値の高い土地などを生前に全部又は一部贈与した方が得策となる場合もあります。
特に、配偶者に居住用財産(居住用の建物や土地など)を贈与する場合には、最大2,000万円まで贈与税が非課税になる『贈与税の配偶者控除』という特例がありますので、該当しそうな場合には利用するか否かを検討する余地があります。
(3)相続時精算課税制度
配偶者以外の子どもや孫に対する生前贈与についても『相続時精算課税制度』というものがあります。
この制度は、生前に贈与した場合の贈与税課税を相続時まで繰り延べるための制度ですので、厳密な意味で相続税の軽減にはなりませんが、子どもや孫に対する生前贈与であれば最大2,500万円まで一時的に税負担なしで贈与することが可能になります。
例えば、賃貸不動産をこの制度を使って子どもに贈与しておけば、そこから得られる賃料収入を生前のうちに子どもへ移転させる(相続財産の増加を抑える)ことができます。
但し、この制度を一旦選択すると、その後は通常の『暦年課税制度』に戻ることができません。
つまり、暦年課税制度の基礎控除(110万円/年)を利用して税負担なしで金銭などを贈与することはできなくなりますので、その点には注意が必要です。
【編集部追記】 令和5年度の相続税及び贈与税の税制改正により、2024年1月から相続時精算課税が大きく改良されました。2,500万円の特別控除と別に、贈与税がかからず相続財産にも加算されない年110万円までの基礎控除が追加して設けられました。
参照:令和6年1月1日施行 令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし
5.土地の相続税の計算方法
(1)自分で計算する場合
相続税をご自身で計算する場合は、先に挙げた評価方法で土地や建物を自分で評価するだけでなく、その他の預貯金や有価証券、生命保険契約などの相続財産(又は債務)も漏れなく正しく評価し、冒頭に示した手順に従って相続税額を算出することになります。
預貯金や有価証券といった金融資産の評価は、土地に比べればかなり画一的(機械的)ですので、金融機関から得られる情報を正しく使えばある程度正確に評価することができます。
ですので、土地の形状・現況が標準的な宅地で、先に挙げたような特殊な減額要因などがなければ、ご自身で土地の評価を行って相続税額まで算出することもできなくはありません。
(2)相続専門の税理士に相談する
しかし、土地の種類は同じ宅地であっても、実際にはその土地毎に形状や現況は異なり、道路に隣接したキレイな整形地(正方形や長方形の土地)であるということはほとんどありません。
そのため、先に挙げたような各種補正率を個々に計算して、特殊要因の有無によって減額評価する必要があるか否かを検討・判断する必要があります。
また、相続税を軽減するために『小規模宅地等の特例』を適用する場合も、その宅地に特例が適用できるか否か、更には適用の仕方(複数宅地があった場合にどの宅地から適用するかなど)によっても相続税額は異なってきます。
ですので、遺産に土地が含まれている場合の相続税の計算や申告は、多少報酬がかかったとしても相続に精通した税理士に相談・依頼された方が良いでしょう。
6.相続税の申告で気を付けたいポイント
土地などの不動産を相続する場合、直ぐに換金して相続人間で分割できないことなどから誰が相続するかで紛糾し、相続税の申告期限(通常は被相続人が亡くなられた日の翌日から10か月以内)までに相続人が決まらないということがよくあります。
(1)相続税の申告が間に合わない
相続税の申告書は期限内に提出することが原則ですが、期限に間に合わないからといって申告せずに後日税務署から調査や指摘を受けて税額が決定されると、本来の税金に加えてペナルティ(延滞税や無申告加算税など)が課されてしまう恐れがあります。
ですので、遺産分割が確定している範囲で取りあえず期限内に一旦申告するか、期限を過ぎていてもできる限り早い時期に申告するようにしましょう。
尚、先の『小規模宅地等の特例』は、対象となる宅地が未分割のままでは適用することができないため、法定相続分に応じて相続したものとして 一旦申告しておき、合わせて『申告期限後3年以内の分割見込書』を添付する必要がありますので注意して下さい。
(2)税額計算を間違えた
申告書は期限内に提出したものの、仮で計算したものであったか内容に誤りがあったために税額が間違っていたということもあります。
その場合、計算し直した結果、税額が増加するようであれば修正申告を行って追加分を納付し、税額が減少するようであれば更正の請求手続きを行って払い過ぎた税金の還付を受けることになります。
いずれも特に期限はありませんが、前者の場合は自ら申告する前に税務調査が行われるとペナルティ(延滞税や過少申告加算税など)が課される恐れがありますので、間違いに気づいたらできるだけ早めに申告された方が良いでしょう。
また、後者の場合も『小規模宅地等の特例』については、対象宅地の選択変更など更正の請求が行えないケースもありますのでその点には注意が必要です。
7.相続や贈与された不動産はどうしたらいい?
生前に贈与されたか相続した土地などの不動産を、直ぐに使う予定がないからといってそのまま放置しておくことは経済的にも近隣への影響などからもあまりお勧めできません。
最後に、相続や贈与された不動産の対処・活用方法についても触れておきます。
(1)売却する
相続や贈与により取得した不動産を保有し続けるにも固定資産税や維持修繕費など相応のコストがかかりますので、将来にわたりまったく使用する見込みや価値がなければ売却することが考えられます。
その場合は、複数の不動産業者に売却価額の査定を依頼し、信頼・納得できる事業者に売買仲介を相談しましょう。
尚、売却した際に利益(売却収入-取得費・譲渡費用)が生じる場合は所得税がかかりますが、その不動産が被相続人から相続したもので、相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却した場合には、『被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例』(いわゆる譲渡所得の3,000万円特別控除)が受けられる可能性があります。
この特例の適用を受けるためには、相続開始直前に被相続人以外には居住していた人がいなかったことなど幾つか要件がありますが、適用できれば相応の税負担軽減になりますので、該当しそうな場合は適用できるかを検討されてみると良いでしょう。
(2)自分や家族が住む
近い将来にご自身や家族が住む可能性があれば、多少コストはかかりますが保有し続けるのも選択肢の一つです。
ご自身で保有・居住していれば、配偶者や子ども・孫などに相続させる際にも特定居住用宅地として『小規模宅地等の特例』を最大限活用できる可能性がありますので、将来次世代の相続税負担を抑えることが期待できます。
(3)賃貸して収益を得る
ご自身や家族が住む見込みはないものの不動産としての価値が高ければ、第三者に貸して賃料収入を得ることも考えられます。
賃貸することで所得(賃料収入-維持管理費用)が生じる場合は所得税が課税されますが、少なくとも先に挙げたような不動産を維持・管理するコストを賄うことはできるでしょう。
また、相続が生じた場合も、貸付事業用宅地として『小規模宅地等の特例』を活用できることに加えて、土地や建物は賃貸していることで評価額を相当程度(概ね20~30%)下げることができますので、やはり相続税の負担軽減が図れます。
但し、借り手は常に保証されているわけではありませんので、将来の賃料収入試算や投資回収計画は慎重に行う必要があります。
8.まとめ
遺産の中に土地などの不動産があったとしても相続税の計算・申告をご自身で行うことは可能です。
しかし、土地の評価や各種特例の適用には専門的な知識が求められることが多く、評価次第で相続税額も大きく変わってしまうため、「払わなくてもよい税金まで払ってしまった」などということにもなりかねません。
ですので、申告に際してはやはり相続に詳しい税理士に依頼されるか、相談して専門家からアドバイスを受けられることをお勧めします。
■執筆:公認会計士、税理士 松井 信行 先生
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