相続した不動産、どうすればいいか悩んでいませんか?
相続不動産を活用する予定がないのであれば売却もひとつの選択肢。
売却することで、不動産管理の手間や固定資産税の負担などから解放され、まとまったお金も手にできます。
しかし、不動産を売却すると税金がかかります。高額な取引になる不動産売却ではかかる税金も高額になる可能性があるので、税金の種類や額を把握しておくことが大切です。税金についてきちんと理解しておかないと、手元に残る金額が少なくなるリスクもあります。
そこで今回は、相続した不動産にかかる税金の種類や計算方法、節税につながる活用できる控除について解説します。
目次
相続不動産の売却にかかる税金の種類
相続した不動産にかかわらず、不動産を売却した場合、以下のような税金がかかります。
- 所得税
- 住民税
- 印紙税・登録免許税
- 消費税
それぞれ詳しく解説します。
所得税
不動産売却の利益は「譲渡所得」に区分され、所得税の対象です。
詳しい計算方法は後ほど解説しますが、譲渡所得は大まかに「売却額から購入・売却にかかった費用を差し引いた金額」とされます。
譲渡所得が黒字になると、所得税が課せられます。反対に、譲渡所得が発生しなければ(赤字になれば)所得税は課せられません。
住民税
譲渡所得は所得税だけでなく、住民税の対象でもあります。譲渡所得にかかる所得税と住民税はあわせて譲渡所得税とも呼ばれます。
譲渡所得税は、利益が発生した場合のみにかかる税金のため、売却すれば必ず発生するわけではありません。
また、譲渡所得には各種控除が用意されているので、控除の活用で譲渡所得税を大きく節税できるケースもあります。
印紙税
印紙税は、売買契約書に対して課される税金です。契約書に記載された取引金額に応じて印紙税が決まり、契約書に印紙を貼付して納税します。
価格帯別の税額は以下の通りです。
印紙税額
記載された金額 | 税額 | 令和9年3月31日まで |
500万円超え1,000万円以下 | 1万円 | 5,000円 |
1,000万円超え5,000万円以下 | 2万円 | 1万円 |
5,000万円超え1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
1億円超え5億円以下 | 10万円 | 6万円 |
印紙税は、令和9年3月31日まで軽減された税額が適用されます。
また、印紙税は契約書に収入印紙を貼付消印して納税します。これを忘れると本来の税額の3倍を支払うというペナルティが科せられるので注意しましょう。
登録免許税
登録免許税は、不動産登記を変更した際にかかる手数料のような税金です。登録免許税は登記の内容によって以下のように異なります。
登録免許税額
登記の種類 | 概要 | 原則税率 |
所有権設定登記 | 新築など新しい不動産の登記 | 不動産評価額 × 0.4% |
所有権移転登記 | 所有者を変更する登記 | 【売却】 土地:不動産評価額 × 2% 建物:不動産評価額 × 2% 【相続】 土地:不動産評価額 × 0.4%建物:不動産評価額 × 0.4% |
抵当権抹消登記 | 抵当権を抹消する登記 | 不動産個数 × 1,000円 |
抵当権設定登記 | 抵当権を設定する登記 | 借入額 × 0.4% |
不動産売却で関わってくるのは、抵当権抹消登記です。抵当権が設定されている不動産は基本的に売却できないため、抵当権抹消登記が必要になり、その際税金が発生します。
また、相続時に相続登記をしていることが売却をするうえで前提になるため、その登録免許税も必要です。
さらに、登記手続きは司法書士に依頼するのが一般的なので、司法書士費用は別途必要になります。
なお、売却に伴う所有権移転登記は買主が負担するため、売主は支払わないケースがほとんどです。
参照:
不動産売買契約書の印紙税の軽減措置|国税庁
No.7191 登録免許税の税額表|国税庁
消費税
個人がマイホームなどの不動産を売却する場合は、売却額に消費税が課せられることはありません。
ただし、以下の費用に対しては消費税がかかります。
- 不動産会社への仲介手数料
- 司法書士への依頼料
- 売却時解体・リフォームなどする場合の費用
相続した不動産の売却では「取得費」がポイント
取得費とは、売却対象の不動産を購入したときにかかった費用のことです。
取得費は譲渡所得を計算する際に、売却額から差し引きます。
相続不動産の売却にかかる税金の中で、もっとも大きな割合を占めるのが譲渡所得税(所得税・住民税)です。取引額によっては100万円以上かかるケースも珍しくありません。
先述の通り、譲渡所得は売却額から取得費と売却にかかった諸費用を差し引いた金額です。そのため、取得費を多く計上できれば利益を押さえられ、税額も減少するのです。
取得費を証明するには売買契約書や領収書などの書類が必要になります。しかし、相続した不動産の場合、購入時から年数が経過しており、正確な取得費が分からない、証明する書類を紛失したということもあるでしょう。
取得費が証明できない場合、正確な取得費ではなく概算の取得費として、「売却額 × 5%」を計上することになります。例えば、売却額が3,000万円なら150万円が取得費です。
概算取得費は、本来計上できる取得費よりも少なくなるのが一般的です。
そのため、できるだけ相続前に書類の保管場所を確認しておき、正確な取得費を把握することがポイントです。
相続した不動産の売却にかかる税金の計算
ここでは、より具体的な譲渡所得にかかる所得税・住民税の計算方法を説明します。
譲渡所得にかかる所得税・住民税の計算式
譲渡所得税は次の2ステップにより導けます。
- 課税譲渡所得を計算する
- 課税譲渡所得に税率をかける
課税譲渡所得の計算式は以下の通りです。
課税譲渡所得 = 売却額 – ( 取得費 + 譲渡費用 ) – 特別控除
取得費と譲渡費用には以下のような項目が該当します。
費用 | 主な項目 |
取得費 | ・不動産の購入額 ・仲介手数料 ・登録免許税 ・不動産取得税 ・印紙税 ・立退料 ・造成費用 ・測量費 |
譲渡費用 | ・仲介手数料 ・印紙税 ・立退料 ・取壊し費用 ・名義書換料 |
取得費からは建物の減価償却費相当額を差し引く点、譲渡費用には修繕費や固定資産税は含められない点も覚えておきましょう。
これらの費用と特別控除を差し引いた額に、譲渡所得にかかる税率を乗じると、所得税と住民税が算出できます。
税率は不動産の所有期間に応じて以下のように分かれます。
税率
区分 | 所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計 |
長期譲渡所得(5年超) | 15% | 5% | 0.315% | 20.315% |
短期譲渡所得(5年以下) | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% |
なお、相続不動産における所有期間は、被相続人(死亡した人)が取得した日から算出されるため、相続したタイミングは関係ありません。
また、起算日は売却した年の1月1日時点となるので、所有期間を計算する際には気をつけてくださいね。
相続した不動産で短期譲渡所得に区分されるケースは多くないですが、所有期間5年を境に税率が大きく異なるので、所有期間をしっかり確認することが大切です。
参照:
No.3252 取得費となるもの|国税庁
No.3255 譲渡費用となるもの|国税庁
所得税と住民税の計算シミュレーション
それでは以下の条件で、実際に税額を計算してみましょう。
なお、ここでは計算をシンプルにするため減価償却費相当額と特別控除は考慮せずに計算します。
- 所有期間:被相続人30年・相続後1年
- 売却額:2,000万円
- 取得費:不明
- 譲渡費用:200万円
取得費が不明なため、概算取得費として2,000万円 × 5% = 100万円を計上します。
課税譲渡所得
2,000万円 – ( 100万円 + 200万円 ) = 1,700万円
所有期間が合計31年なので、長期譲渡所得の税率が適用されます。
譲渡所得税
1,700万円 × 20.315% = 約345万円
上記の条件だと、約345万円の譲渡所得税がかかります。仮に、取得費の正確な額が3,000万円と証明できれば、譲渡所得が赤字になるので税金はかかりません。
取得費の証明が、いかに重要かが分かりますね。
ただし、取得費が不明でも特別控除を活用することで、税額を押さえられる可能性があります。
次章では節税につながる控除について紹介していきます。
相続した不動産の売却で意識すべき税金の控除・特例
譲渡所得税は、控除や特例を活用することで節税できます。
この章では、相続した不動産で適用を検討できる主な控除・特例を紹介します。
取得費の特例
相続時に支払った相続税の一定額を取得費に加算できる特例があります。
主な適用要件は以下の通りです。
- 相続や遺贈により取得した不動産であること
- 相続税を支払っていること
- 相続税の申告期限の翌日以後3年までの売却であること
出典:No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例|国税庁
空き家を売ったときの特例(3,000万円控除)
相続した不動産が空き家の場合、売却すると譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。
これを「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」といいます。
譲渡所得が3,000万円以下の場合は、税金が発生しなくなるため、節税の観点からも大きな効果を発揮します。
ただし、この特例は適用条件が厳しいといわれます。主な要件は以下の通りです。
- 昭和56年3月31日以前に建築されている
- 相続開始直前被相続人以外が居住していない
- 相続開始後事業や居住に活用されていない
- 相続開始から3年を経過する年の12月31日までの売却
- 一定の耐震基準を満たすか更地での売却
- 売却額が1億円以下
出典:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁
3,000万円控除の延長について
空き家の3,000万円控除は、はじめは令和5年12月31日までの売却が対象の特例でしたが、平成31年度の税制改正により、令和9年12月31日まで延長されています。
令和9年以降の延長については、2024年8月現在では分かりませんが、さらに延長される可能性もあります。
この件に限らず、特例は年によって期間や適用条件が異なる可能性があるため、適用を検討する場合は、国のサイトなどで最新情報を確認しましょう。
相続した不動産を売却したときの確定申告
相続した不動産を売却した場合、確定申告が必要になるケースがあります。
以下に該当する場合です。
- 売却で利益が発生した
- 特別控除を適用する
各種特例を適用するには確定申告が必要なので、特例により税金が発生しなくなった場合でも対応しましょう。
原則、譲渡所得が発生しない場合は、確定申告は不要です。ただし適用できる特例を使う場合は確定申告が必要になります。
確定申告に必要な書類と書き方
主な必要書類は以下の通りです。
- 確定申告書
- 本人確認書類
- 譲渡所得の内訳書
- 所得費を証明する書類
- 譲渡費用を証明する書類
- 各種特例適用のための書類
確定申告書は、税務署の窓口や国税庁のホームページからダウンロードできます。
必要書類・記載方法については、国税庁のホームページを確認してくださいね。
確定申告のやり方・流れ
確定申告は、指定された申告時期に確定申告書を管轄の税務署に提出、もしくはe-Taxを利用して行います。
申告時期は、売却した年の翌年2月16日から3月15日の間であることが多いです(過去には、新型コロナウイルス感染症により期間が延長されたこともあります)。
申告時期に間に合わなかったり申告自体を忘れたりすると、無申告加算税などのペナルティが科せられる恐れがあります。
税金の計算や申告方法に不安がある方は、税理士や自治体の相談コーナーにアドバイスを求めることをおすすめします。
【FAQ】相続した不動産の売却にかかる税金についてよくある質問
最後に、相続不動産の売却によって発生する税金について、疑問を持ちやすいポイントに回答していきます。
確定申告は自分でできる?税理士に委託する場合の費用は?
確定申告は自分でもできます。国税庁のホームページに申告書の書き方などが記載されているので確認しながら進めるとよいでしょう。
また、申告時期には税務署や自治体の役所に無料の相談コーナーが設置されるケースもあるので活用するのも一手です。
一方、税金の計算が複雑で分からなかったり、調べながら進める時間がなかったりする場合は、税理士に委託する方法もあります。
税理士に任せる場合は委託料が発生します。金額は依頼する税理士や売却額によって異なりますが、約10〜30万円が目安です。
共有名義の相続不動産を売却した場合、税金はどうなる?
売却したい相続不動産が共有名義の場合、まず、課税譲渡所得をそれぞれの持分で按分し、それぞれ別で譲渡所得税の計算や特例の適用を行う必要があります。
税金が発生する場合は、確定申告も各々で行います。代表者がまとめて確定申告できるわけではありません。
相続した不動産は3年以内に売却すると節税できる?
3年以内に売却することで、「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」の適用が可能となり、節税できる可能性が高まります。また、相続税の一部を取得費に加算する特例の適用も検討できるでしょう。
しかし、これらの特例の適用には全要件を満たす必要があるため、一概に3年以内に売却すれば節税できるとはいえません。
相続した不動産の売却後、確定申告不要なケースもある?
基本的に売却しても利益が出ないケースでは、税金も発生しないため確定申告は不要です。
ただし、特例により、ほかの所得と相殺する「損益通算」や「繰越控除」ができることもあります。適用するためには確定申告が必要なので、特例の適用要件を調べたうえで判断しましょう。
ちなみに、自分で計算した結果が赤字でも、厳密に計算すると黒字になるケースも少なくないため、計算や特例の適用に不安がある方は税理士に相談するとよいでしょう。
まとめ
相続した不動産を売却すると、以下の税金が発生します。
- 譲渡所得税(所得税 + 住民税)
- 印紙税・登録免許税
- 消費税
特に、譲渡所得にかかる所得税、住民税は高額になるケースもあるので、計算方法や適用できる特例について理解しておくことが重要です。税金についての知識を深めることで、賢く節税してくださいね。
とはいえ、税金の計算や適用できる特例の判断は、複雑で分かりにくいものです。また、計算が誤っていると損をしたり、ペナルティを受けたりすることもあるので、確定申告や税金のことはプロに相談することをおすすめします。
また、そもそも相続不動産を高値で売却できれば、税金を支払っても手元に多くのお金を残せます。
不動産を少しでも高く売るためには、売却を任せる不動産会社選びが重要です。
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