「相続した家屋敷を売却したら、税金はかかるの?」
「住まないので実家を相続しても売却したい。けれど、その後の手続きが面倒だ……」
相続した不動産の扱いを検討する中で、売却後の税金や手続きに関して悩む方が多くいます。
たしかに、相続によって取得した不動産の売却によって利益を得た場合、多くのケースでは確定申告をして、納税する義務があります。
しかし、特定の状況においては確定申告が不要になることもあります。
そこで今回は、相続不動産の売却で確定申告が不要なケースに焦点を当てて解説していきます。確定申告をしたほうが得になるケースや必要な確定申告を怠った場合のペナルティ、手間を減らすための工夫なども紹介しているので、ぜひ参考にしてくださいね。
目次
相続不動産売却後に確定申告が不要なケース
前提として、相続不動産の売却によって発生するのは譲渡所得です。譲渡所得には不動産・有価証券・美術品・貴金属などの資産の譲渡(売却等)によって発生する所得が該当します。
相続不動産の売却による譲渡所得の計算方法は以下のとおりです。
譲渡所得 = 譲渡価額 – ( 取得費 + 譲渡費用 )
相続の場合、不動産の「取得時期」は故人がその不動産を購入した日であり、その際に発生した費用が「取得費」に該当します。
なお、生前贈与により無償で取得した不動産の場合、取得費は、贈与者が対象不動産の購入にかかった費用をもとに計算されます。
また、不動産の売却に伴う譲渡所得税を計算する際には、所有期間によって異なる税率が適用されます。このときの所有期間も、原則として故人の取得時期から起算されます。
そして、相続不動産の売却後に確定申告が不要なケースは以下の2パターンです。
- 譲渡損失が出た(譲渡所得がマイナスになった)場合
- 譲渡所得とほかの所得を合計して20万円以下の場合
それぞれのケースについて詳しく解説します。
譲渡損失が出た(譲渡所得がマイナスになった)場合
相続不動産の売却によって譲渡損失が出た場合、すなわち譲渡所得がマイナスになった場合は確定申告が不要です。課税対象となる所得が存在しないため、所得税の発生しようがありません。したがって、確定申告の必要性もなくなります。
譲渡所得とほかの所得を合計して20万円以下の場合
不動産売却により譲渡所得が発生した場合でも、以下の要件を満たす場合は確定申告が不要です。
- 不動産売却による譲渡所得とほかの所得の合計が20万円以下である
ただし、確定申告はあくまで所得税の対象となる所得の申告です。所得が20万円以下の場合でも住民税の申告は必要です。
また、会社員など給与所得者の場合は、給与所得以外の所得の合計が20万円以下で、以下2つの要件を満たしていれば、確定申告が不要です。
- 1カ所の勤務先から給与をもらっている給与所得者である
- 勤務先で年末調整を受けた
ここで、確定申告の要不要の判断に悩みやすい例を紹介します。
例1)2カ所以上の勤務先から給与をもらっており、譲渡所得が20万円以下である
答え:当該特例が適用されるのは1カ所の勤務先から給与をもらっている給与所得者のみのため、このケースでは確定申告をする必要があります。
例2)個人事業主であり、譲渡所得が20万円以下であった
答え:譲渡所得が20万円以下であっても、事業所得をはじめとするほかの所得との合計が20万円を超える場合は、確定申告が必要です。
相続不動産の売却に関する特例の適用には確定申告が必要
相続に限らず、不動産売却に関する特例を適用するためには確定申告が必要です。
特例による控除で所得税がゼロになるケースであっても確定申告をしなければ所得税が発生します。
特例によっては相続後すぐ(3年以内)に売却する必要がある
相続した不動産の特例に関しては、売却するタイミングも重要です。
詳しくは後述しますが、相続税の申告期限後から3年以内の売却でなければ特例の適用要件を満たすことができないため、この場合は確定申告をしても控除は受けられません。
相続不動産の売却に限らず、所得税の特例は細かな要件が定められているものが多く、1つでも要件を満たさなければ適用を受けられません。特例の適用を確実に受けるため、適用対象となりうる特例について調べる際は、名称や概要だけでなく、細かな要件まで入念にチェックしましょう。
相続不動産を売却した際に適用対象となりうる特例
相続不動産を売却した際に適用対象となりうる特例として、以下の5つが挙げられます。
- 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(3,000万円控除)
- 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
- マイホームを売ったときの軽減税率の特例
- 【譲渡損失の場合】特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
- 【譲渡損失の場合】マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
それぞれ概要や適用要件、注意点について詳しく解説します。
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例(3,000万円控除)
相続や遺贈によって取得した被相続人の居住用財産を売却し、一定の要件を満たす場合、譲渡所得から3,000万円まで控除できる制度です。
以下3つの要件をすべて満たす不動産が対象になります。
- 昭和56年(1981年)5月31日以前に建築された
- 区分所有建物登記がされている建物ではない
- 相続開始の直前において被相続人以外の居住者がいなかった(要介護認定を受けて老人ホームなどの施設に入所するなど一定の要件に該当する場合は、その直前まで被相続人の居住の用に供されていた家屋が該当します)
特例の適用を受けるための主な要件は以下のとおりです。
- 相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る
- 売却価格が1億円以下である
対象の不動産に関しては、以下のどちらかである必要もあります。
- 「被相続人の居住用家屋」もしくは「居住用家屋と敷地等」を売る
- 被相続人の居住用家屋を取り壊した後に当該敷地を売る
さらに細かな要件は、国税庁の公式サイトに詳しく記載されています。
3,000万円控除の特例の延長について
当初「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」の適用期間は2023年(令和5年)12月31日までとされていました。しかし、当該特例は空き家の早期有効活用に大きく寄与する結果となりました。
そのため、特例の適用期間の終了後は利用が予定されていない空き家の数が増加するおそれがあります。
そのような背景から、令和5年度の税制改正要望の結果、3,000万円控除の特例の適用期間が2027年(令和9年)12月31日まで延長されています。
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
相続財産を一定期間内に譲渡した場合に、相続税額のうち一定金額を、譲渡資産の取得費に加算できる制度です。売却による収入金額から差し引ける額が増えるため、所得税の減額につながります。
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例の適用を受けるための要件は以下のとおりです。
- 対象の資産を相続や遺贈によって取得した
- 財産を取得した人に相続税が課されている
※相続税額のうち一定額を譲渡資産の取得費に加算できる制度のため、相続税が課されていなければ加算できる額が存在せず、特例の適用を受けられません - 当該財産を、相続開始日の翌日から、3年10カ月を経過する日までに譲渡している
マイホームを売ったときの軽減税率の特例
居住用不動産の売却において一定の要件を満たす場合に、通常よりも低い税率を適用できる制度です。
相続によって取得した建物を相続人が自宅として利用していた場合も、要件を満たせばこの特例の適用を受けられます。前述の通り、不動産の「取得時期」は故人がその不動産を購入した日です。
主な要件は以下のとおりです。
- 売却した年の1月1日時点において、当該家屋や敷地の所有期間がともに10年を超えている
- 売却した年の前年に当該特例の適用を受けていない
- 売却相手が親子や夫婦など「特別の関係がある人」ではない
【譲渡損失の場合】特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
住宅ローンのあるマイホームを住宅ローン残高を下回る価額で売却して譲渡損失が出た場合に受けられる特例です。
一定の要件を満たす場合に、当該譲渡損失を最長3年間、給与所得や事業所得などから控除できます。
ただし、相続で取得した不動産に関しては、その不動産が相続人の「マイホーム」としての要件を満たしている必要があります。
つまり、譲渡した不動産が相続によって取得されただけでなく、その後、相続人自身がその不動産に住んでいたかどうかが重要になります。
【譲渡損失の場合】マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
マイホームの売却後に新たにマイホームを購入した場合(マイホームを買い換えた場合)に、旧マイホームの売却で譲渡損失が出たときに受けられる特例です。
相続で取得した不動産の売却に関して、この特例を適用するには、次の条件を満たす必要があります
- 売却する不動産は自分が住んでいるマイホームであること。なお、以前に住んでいたマイホームの場合には、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること。
- 売却した年の前年、売却した年、またはその翌年に新たな居住用不動産(家屋の床面積が50平方メートル以上)を購入し、そこに住むこと。
- 売却する不動産の所有期間が5年を超えていること。
- 新しいマイホームを購入した年の12月31日の時点で、そのマイホームに対して返済期間が10年以上の住宅ローンがあること
相続で取得した不動産が、相続人自身が居住していたマイホームとしての要件を満たしており、その後新たなマイホームを購入した場合には、この特例の適用を受けられる可能性があります。
しかし、相続によって取得された不動産が居住用としての要件を満たしていない場合や、その他の条件を満たしていない場合には、この特例の適用は受けられません。
【体験談】相続不動産を売却したが確定申告が不要だった事例
ここで、相続不動産の売却後に確定申告が不要だったケースについて、不動産会社での7年間の勤務経験がある筆者のお客様の事例をもとに、体験談を3つ紹介します。
共有名義で譲渡所得が20万円を下回った事例
昨年、父が亡くなり、私と兄、妹の3人で実家を相続しました。誰も住む予定がなかったため、「空き家になるなら」と実家を売却して分配することになりました。
実家は築年数がかなり経っていたため、売却価格はそれほど高くありませんでした。しかも、取得費を差し引いた結果、3人それぞれの譲渡所得は20万円以下となりました。税務署に確認したところ、譲渡所得が20万円を下回る場合は、確定申告が不要であることを知り、思わぬ負担がなくホッとしました。特に会社勤めの身としては、確定申告の手間が省けたことは大きな助けになりました。
ポイント)
複数人での相続の場合、不動産が共有名義になることもしばしばあります。その場合、自分の持分に対する部分についてのみ、売却による譲渡所得を計算します。
取得費が高く、譲渡所得がゼロになった事例
母が亡くなり、私は一人っ子だったので実家のマンションを相続しました。その後、実家に住む予定もなかったため、マンションを売却することにしました。マンションの売却額はそこそこ高額だったので、譲渡所得がどれくらいになるのか心配でした。
売却が成立し、譲渡所得を計算してみたところ、母が購入した当時の取得費がかなりの額だったため、結果的に譲渡所得はゼロとなりました。
相続と売却に伴う書類が多かっただけに、確定申告を避けられたのは助かりました。
ポイント)
相続では取得費不明の不動産もあるので、その場合は、概算で取得費を算出することで譲渡所得が高額になることもあります。取得費が高ければ譲渡所得が発生しないケースも多いので、関連書類の所在を把握しておくことは重要です。
親族間売買によって譲渡所得が発生しなかった事例
私は昨年、地方の土地を父から相続しました。私自身はすでにほかの場所に住んでいたため、その土地を使う予定はありませんでした。
売却を考えていたところ、私のいとこがその土地を活用したいと言ってきました。いとこは地元に根ざした生活をしており、私としても親族に使ってもらえるのは嬉しいことでした。そこで、いとこが購入しやすいように、相場より少し安い価格で売ることにしました。
ただ、親族間の売買に関しては税務署が注意深く見ることを知っていたため、あまりに安い価格で売ると贈与とみなされるリスクがあることが気がかりでした。そこで、不動産会社に相談し、相場価格を調べてもらいました。最終的に、相場の約7割程度の価格でいとこに売却することに決めました。
譲渡所得の計算をしたところ、金額を下げたことで譲渡所得が発生しないことがわかりました。税務署に確認したところ、この価格設定は適正範囲内であり、贈与とみなされることもなく、確定申告は不要だということでした。
結果的に、親族に土地を譲ることができ、また税務上のリスクも避けることができたため、非常に満足のいく取引となりました。相場より安く売ったものの、適正な範囲内であったため、特に問題もなくスムーズに手続きを終えることができました。
ポイント)
個人間売買では相場とかけ離れた金額で取引すると、「みなし贈与」等として扱われ、別途課税されるおそれがあります。そのため、たとえ親族間であっても金額の妥当性を確認することが重要です。
相続不動産を売却した後の確定申告のやり方
相続不動産を売却した後の確定申告のやり方は、一般的な不動産売却後の確定申告と基本的には同じです。確定申告を行う方法・手段や、確定申告の必要書類および書き方について紹介します。
確定申告を行う方法・手段
確定申告の方法は大きく3つのパターンに分けられます。
- すべて自分で行う
- 専門家である税理士に依頼する
- 弁護士に依頼する
すべて自分で対応することも可能です。ただし、不動産売却後の確定申告はルールが複雑で専門知識が必要な部分が多く、当事者のみで対応するとミスが起きるおそれがあります。少しでも気になる事項があれば、無理に対処しようとせず税理士に相談するのが確実です。
税理士に依頼する場合でも、書類の用意や情報共有などの作業は必要です。また、スポットで税理士に相談してアドバイスのみもらい、申告書の作成や提出自体は自分で行うケースもあります。
税理士資格を持っている弁護士に依頼する方法もあります。不動産売却において法的な面で不安やトラブルがある場合、法律トラブルの相談とあわせて確定申告を依頼するのも選択肢の1つといえます。ただし税理士に比べて報酬は高めの傾向です。
必要書類と書き方
不動産売却後の確定申告の必要書類として以下の例が挙げられます。
- 確定申告書第一表・第二表
- 確定申告書第三表(分離課税用)
- 譲渡所得の内訳書
- 本人確認書類
- 不動産の売却に関する売買契約書
- 当該不動産の取得費用を確認できる書類
- 当該不動産の譲渡費用を確認できる書類
- 売却後の登記事項証明書
1〜3は国税庁の公式サイトや税務署の窓口で入手可能です。4は写しを確定申告書に添付するか、確定申告書を窓口で提出する際に原本を提示する必要があります。5〜8は不動産売却における各種金額を確認・証明するために必要な書類です。
確定申告の大まかな流れは以下のとおりです。
- 必要書類を用意する
- 課税所得の内訳書を作成する
- 2の内容を確定申告書第三表に転記する
確定申告書第三表の作成を進め、必要箇所を埋めることで税額の計算ができます - 確定申告書第一表・第二表を作成する
- 確定申告書および添付書類をあわせて提出する
なお、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を使う場合、画面の案内に沿って入力をすれば自動で確定申告書が完成します。
相続不動産の売却により必要な確定申告をしないとどうなるのか
相続不動産の売却後に無申告でいると、以下のようなことが起こるおそれがあります。
- 税務署や国税庁から確認の連絡がくる
- 税務署による調査が入る(税務調査)
- 附帯税が課される
主な附帯税 | 内容 |
---|---|
滞税税 |
税金が期日までに納付されない場合に課される税金です。利息の性質をもちます。 |
無申告加算税 |
期日までに確定申告をしなかった場合に課される税金です。納付するべき税額に一定率を乗じた額が課されます。 |
なお、売却によって譲渡損失が出たために確定申告をしなかった場合でも、国税庁などから確認の連絡がくるケースがあります。国税庁は登記の移動記録を確認でき、譲渡所得が発生している可能性がある人を推測できるためです。
あくまで推測のため、実際には譲渡所得が出ていない人に連絡をするケースもあります。譲渡損失が出たために確定申告をしなかった場合は、落ち着いてその旨を伝えれば問題ありません。
まとめ
確定申告と聞くと不安に思うかもしれませんが、正しい対応さえすれば何も問題ありません。
当事者のみですべて対応するのは容易ではないものの、専門家である税理士のサポートを受ければ適切な確定申告ができます。節税対策についてのアドバイスももらえます。
したがって、譲渡所得の確定申告について不動産売却前から気にしすぎる必要はないといえるでしょう。
さらにいえば、不動産売却後の税金について気にするよりも、納得のいく不動産売却を実現するほうが大切です。そして納得のいく不動産売却をするためには、腕がよく信頼できる事業者を選ぶ必要があります。
相続不動産を高く売れるよう、情報収集や無料相談等をして比較検討をしながら業者選びを行いましょう。