「不動産を売却した後、税金を支払わなくても済むケースはある?」
「不動産売却でどのような税金が発生する?」
不動産売却に関連する税金には、さまざまな種類がありますが、必ずしもすべての税金が発生するわけではありません。必ず課される税金もあれば、状況によっては発生しない税金もあります。
不動産売却に伴う税金を正しく処理するためには、発生する可能性のある税金の種類や、税金が発生しないケースを理解しておくことが重要です。
そこで今回は、不動産売却でかかる税金の種類と、税金が発生しない場合について詳しく解説します。
目次
不動産売却でかかる税金の種類
まずは、不動産売却に関連する6種類の税金を紹介します。
税金の種類 | かかる / かからない | 特徴 |
---|---|---|
印紙税 | かかる | 印紙税とは契約書など特定の文書を作成した際に、印紙税法に基づいて課税される税金です。 「売買契約書」は印紙税の課税文書に該当するため、印紙税がかかります。対象の文書に収入印紙を貼付することで納付したとみなされます。 |
登録免許税 | かかる | 登録免許税とは登記申請の際にかかる税金です。不動産売却によって抵当権抹消登記や所有権移転登記を行う必要がありますが、その際に登録免許税が発生します。 |
消費税 | かからない場合もある | 売主が課税事業者でなければ売却代金に消費税はかかりません。また、土地も非課税です。しかし、仲介業者に支払う仲介手数料は消費税の課税対象です。また、登記申請を司法書士に依頼する場合の報酬にも消費税が課されます。 |
所得税 | かからない場合もある | 不動産売却による譲渡所得に対して課されます。 |
復興特別所得税 | かからない場合もある | 不動産売却による譲渡所得に対して課されます。 |
住民税 | かからない場合もある | 不動産売却による譲渡所得に対して課されます。 |
不動産売却による譲渡所得にかかる所得税・住民税・復興特別所得税を総称して、譲渡所得税と呼びます。譲渡所得税は、状況によってかからない場合があります。
譲渡所得税がかからないケースについては、次章で解説します。
不動産売却で税金がかからないケース
不動産売却で税金がかからないケースについて、詳しく解説します。
譲渡所得税
不動産売却後に譲渡所得税がかからない場合として3つのパターンが挙げられます。
譲渡損失が出た(譲渡所得がマイナスになった)場合
不動産売却により譲渡損失が出た場合、すなわち譲渡所得がマイナスになった場合は譲渡所得税はかかりません。
前提として、不動産売却による譲渡所得は以下の式で計算します。
譲渡所得 = 譲渡価額 – ( 取得費 + 譲渡費用 )
計算の結果がマイナスになった状態を「譲渡損失」と呼び、この場合は課税対象となる所得が存在しない状態のため、譲渡所得税がかかりません。
譲渡所得とほかの所得の合計が20万円以下の場合
不動産売却による譲渡所得とほかの所得の合計が20万円以下で、かつ、以下の要件をすべて満たす場合は確定申告が不要です。
- 1カ所の勤務先から給与をもらっている給与所得者である
- 1の勤務先で年末調整を受けており、その年の所得税の精算が完了している
年末調整を受けた給与所得者は、給与所得以外の所得の合計が20万円以下であれば確定申告が不要になります。申告が必要な所得が存在しないという扱いであるため、不動産売却による譲渡所得税は発生しません。
特例の適用により譲渡所得を計上しない場合
譲渡所得が20万円を超えていても、特例の適用によって譲渡所得がゼロになるケースがあります。この場合も、課税所得税が発生しません。
不動産売却において適用対象になりうる特例としては、以下のようなものがあります。
収用等により土地建物を売ったときの特例 | 収用権が認められている公共事業のために不動産売却をした場合に適用対象となる特例です。要件を満たせば、5,000万円までの控除を受けられます。 |
マイホームを売ったときの特例 | マイホームとして使っていた不動産を売却したときに受けられる特例です。要件を満たせば、3,000万円までの控除を受けられます。 |
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例 | 相続によって承継した被相続人の居住用財産を売却した際、一定の要件を満たす場合に受けられる特例です。要件を満たせば、3,000万円までの控除を受けられます。 |
不動産売却に関する特例は控除額が大きいため、特例によって譲渡所得がゼロになるケースは珍しくありません。
なお、いずれの特例を適用するためには確定申告を行う必要があります。
譲渡所得税以外
譲渡所得税は、一定のケースに該当する場合はかかりません。
一方で、印紙税と登録免許税は必ず発生します。印紙税は不動産売買契約書が印紙税法で定められた課税文書に該当するため、登録免許税は不動産売却に際して登記手続きが発生するためです。
消費税については、以下のとおりです。
対象 | 消費税がかかる / かからない | かからない場合の要件 |
---|---|---|
不動産業者へ支払う仲介手数料 | かかる | – |
司法書士へ支払う報酬(登記手続きの代行を依頼した場合) | かかる | – |
不動産の売却代金(負担は買主、納税は売主が実施) | かからない場合がある | ・非業務(個人)用の不動産を売却した ・売却した不動産の種類が土地(土地は非課税対象) ・売主が消費税の課税事業者ではない |
不動産売却後の譲渡所得税計算シミュレーション
前章で、不動産売却による譲渡所得税がかからないケースとして3つの例を紹介しました。譲渡所得税がかかる・かからないを判断するためには、それぞれのケースに当てはまるかを確認する必要があります。
不動産売却後の譲渡所得税は、以下の流れでシミュレーションを進めて判断するのが効率的です。
- 譲渡所得を計算する
- 譲渡所得とほかの所得を合算する
- 2で計算した譲渡所得から特例による控除額を引く
- 税額を計算する
順にみていきましょう。
1)譲渡所得を計算する
計算式は以下のとおりです。
譲渡所得 = 譲渡価額 – ( 取得費 + 譲渡費用 )
譲渡所得がマイナスの場合は譲渡所得税がかかりません。譲渡所得がプラスの場合は2に進みます。
譲渡所得の計算については、以下の記事で詳しく解説しています。
2)譲渡所得とほかの所得を合算する
譲渡所得とほかの所得(給与所得と退職所得以外)の合計が20万円以下の場合は、譲渡所得税はかかりません。
ほかの所得との合計が20万円を超えている場合や、個人事業主など給与所得者以外の方は3に進みます。
3)2で計算した譲渡所得から特例による控除額を引く
特例の適用要件を確認し、該当する場合はその範囲で控除が適用されます。控除によって金額がゼロになれば、譲渡所得税はかかりません。
ただし、確定申告をしなければ特例の適用を受けられないため注意が必要です。
4)税額を計算する
譲渡所得に特例による控除を適用してもプラスであれば、譲渡所得税がかかります。計算式は以下のとおりです。
譲渡所得税 = 譲渡所得 × 税率
売却した不動産の所有期間が、売却した年の1月1日時点で5年以上の場合は長期譲渡所得、5年未満の場合は短期譲渡所得として扱い、それぞれで税率が異なります。
それぞれの税率は以下のとおりです。
区分 | 所得税 | 住民税 | 復興特別所得税 | 合計 |
---|---|---|---|---|
長期譲渡所得(5年超) | 15% | 5% | 0.315% | 20.315% |
短期譲渡所得(5年以下) | 30% | 9% | 0.63% | 39.63% |
不動産売却でできる税金対策・節税方法
不動産売却でかかる税金のうち、登録免許税・消費税の節税は困難です。一方で、譲渡所得税や印紙税には、以下のように複数の節税方法があります。
譲渡所得税の税金対策・節税方法一覧
- 譲渡費用に該当するものを漏れなく計上する
- 不動産の取得費に加算できるものを漏れなく計上する
- (リフォームをしていた場合は、)リフォーム費用を取得費に加算する
- (相続不動産を売却した場合は、)「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」の適用により、相続税額のうち一定金額を取得費に加算する
- 対象となる特例を漏れなく適用する
- 長期譲渡所得の税率を適用させるため、所有期間が5年を超えてから売却する
- 10年超所有軽減税率を適用てきようさせるため、所有期間が10年を超えてから売却する
印紙税の税金対策・節税方法一覧
- 不動産売買契約を電子契約で行う
- 売主側が保管する売買契約書の控えを写し(コピー)とする
印紙税の課税対象は書面とされているため、電子契約で節税ができます。
また、単なる写しは契約成立を証明する文書ではないとされ、課税文書にあたりません。一部、議論の余地がある手段ですが、十分に有用です。
参照:売買契約書の原本を1通だけ作成することの是非 | 公益財団法人不動産流通推進センター
なお、実施できる・効果のある節税方法はケースによって異なります。自身に合った節税方法を選ぶためには、専門家である税理士に相談するのが安心です。
不動産売却後は税金がかからなくても確定申告したほうがよい理由
譲渡損失が出た場合と、給与所得者で譲渡所得とほかの所得の合計が20万円以下の場合は、確定申告をしなくても問題ありません。
しかし、不動産売却による譲渡所得税がかからない場合でも、確定申告をしたほうがよいといえます。その理由を紹介します。
損益通算や繰越控除の特例を適用するため
譲渡損失の損益通算や繰越控除の特例を適用するためには、確定申告が必要です。不動産売却に関する損益通算や繰越控除の特例として以下の2つが挙げられます。
特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例 | 住宅ローンが残っているマイホームを、住宅ローン残高を下回る価額で売却して譲渡損失が出た場合に受けられる特例です。 |
マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例 | マイホームの売却後に新たにマイホームを購入した場合(マイホームを買い換えた場合)に、旧マイホームの売却で譲渡損失が出たときに受けられる特例です |
一定の要件を満たす場合に、譲渡損失を給与所得などほかの所得から控除できます。控除しきれなかった損失は翌年以降に繰り越して控除でき、繰り越せる期間は譲渡の年の翌年以後3年間です。
譲渡損失が出た場合でも確定申告をすれば、所得税の節税につながるのです。
参照:No.3203 不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合|国税庁
【FAQ】不動産売却で税金がかかる・かからないに関してよくある質問
不動産売却でかかる税金、かからない税金に関して、よくある質問を紹介します。
「マンションなら税金がかからない」という場合はある?
マンションであることを理由に税金がかからなくなるケースはありません。
売却する不動産がマンションでもそれ以外でも、譲渡所得が発生すれば譲渡所得税がかかります。また、発生したのが譲渡所得・譲渡損失どちらの場合も、登録免許税や印紙税の納付は必須です。
「相続不動産なら税金がかからない」という場合はある?
売却した不動産の種類や取得方法が何であれ、印紙税と登録免許税はかかります。相続不動産を売却した場合も同様です。
一方、特例の適用によって譲渡所得税がかからなくなるケースはあります。相続不動産の売却時に適用対象となりうる特例は以下のとおりです。
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例 | 相続等によって取得した被相続人の居住用財産を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。適用を受けるには一定の要件を満たす必要があります。 |
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例 | 相続財産を一定期間内に譲渡(売却)した場合に、相続税額のうち一定金額を取得費として加算できます。 |
まとめ
不動産売却による税金関連のトラブルを防ぐためには、税金がかかる・かからないケースそれぞれを押さえることが大切です。
譲渡所得税は、不動産売却による譲渡所得の額や特例によっては発生しないケースもありますし、節税の余地が大きいといえます。
しかし一方で、不動産売却で手元に多くのお金を残すなら、税金のことよりも高く売ることを考えたほうが賢明かもしれません。そのほうが、結果的に手元に残る金額が大きくなりやすいからです。
高く売るためには、不動産会社選びが重要です。不動産会社の選び方は、以下の記事で解説しています。
後悔しないよう、工夫をしながら不動産の売却活動に取り組んでくださいね。